三つの怖い話

↑「あとで」は、しおり代わりに使えるよ↑

作者:朧塚

 


 

 僕とアスカと、ヨシキの三名は、あるサークルに所属していた。

 大学も三年になって、三人共、それぞれが就職に関して悩んでいた。ヨシキは大学院に入ると言っている。アスカは服飾関係の仕事に就こうと考えているみたいだった。就職難の時代だが、なんとなくみんなもう少しモラトリアムをしていたい。そんな矢先、僕は牛丼屋でのバイトを止めて、ふらふらとしていた。そんな時、ネット・サーフィンをしていると、山小屋の写真が見えて、なんとなくここに泊まりに行きたいなと思った。
 
 最初に提案したのはヨシキだったと思う。

 怖い話がしたいと。

 寒い時期にこそ、怪談を行おうとサークルのメンバー達は集まった。

 雪が降る夜に、山小屋の中で怖い話をする事になった。

 ヨシキが車を出して、都内から三時間近くかけて、その山小屋には着いた。

 部屋の電気を消して、三つのロウソクに火を点ける。

「まず、私から話すわね」

 最初はアスカからだった。

「逆さま幽霊の話をするわね。これは私が高校生の頃に体験した事なのだけど」

 彼女は少しの間、口ごもって話始める。

「高校生になって、どんな部活に入ろうか悩んでいたところ、テニス部の男の先輩にとても格好いい人がいてね。一目ぼれだったの。容姿端麗で、他の女生徒からも人気があった。面倒見がよくて、勉強も出来るって聞いていたわ。だから、私は女子テニス部に入ろうと思った。でも、入ってから、少し後悔する事になった。テニス部の部室にはいわくつきのロッカーがあるって」

 アスカの端正な顔は、ロウソクで揺れている。

「数年前、女子テニス部ではイジメが酷かったわけね。特に新入生の。シゴキとしょうして、それはもう徹底しているの。ねえ、二人共、イジメたり、イジメられたりした体験はある?」

 僕は小学校の頃に少しだけと答えた。

 ヨシキは中学校、高校の頃にイジメを遠巻きに見ていて、少しだけ加担したかもしれない、と答えた。

「そう。みんなそんなものよね。学校という狭い世界にいると誰でも通る道。大学に入ってバイト先でも軽い嫌がらせはあるし、就職しても色々な職場で大なり小なりあるって聞いたわ。人間の性質なんじゃないかしら? 話を戻すわね。とにかく、私の所属していた女子テニス部では数年前に酷いイジメがあった。女の子同士のイジメって、それはそれで陰湿で、噂を流したりするの。たとえば、根も葉もない噂とか」

 話し続ける、アスカの口調は淡々としたものだった。

「数年前、女子テニス部にある新入生が入ってきてね。可愛い子だったと聞かされているわ。女子テニス部は私と同じように、男子テニス部に好きな人がいて入部している子が多いのが、私の母校の伝統みたいなものだったの。みんな表向きは熱心にスポーツをしてみたいとか言いながらね。それで、その新入生なのだけど、少し天然で、でも中学校時代からテニスをやっていたらしく県大会にも出場したらしいわ。そして入部当初から男子にも人気があった。それが先輩達の嫉妬を買ったんでしょうね」

 アスカを照らす、ロウソクの炎が揺らめいている。

「それで、その女の子は先輩達から、イジメにあったの。イジメの内容は最初は軽いもんものだったのだけれども、どんどん酷いものへと変わっていったらしいわよ。無視や陰口、練習中にワザとボールをぶつけられる、シゴキとしょうして、過度な練習量を行わせる。機材を一人で運ばせる、それから更にエスカレートしていったの、ねえ、貴方達はイジメに加担したり、イジメられた経験は?」

 僕は静かに、首を横に振る。

 ヨシキもだった。

 確かに、ストレスの多い中高生にとって、人格な未熟ゆえに、そのような事をしてしまう事は多い。けれども、たまたま僕の場合は、運よく友人達に恵まれたお陰で、そのようなものに巻き込まれる事は無かった。

「そう、それは良かった。先輩達は、その子以外の後輩達にまで圧力をかけてきて、その子と仲良くするなって言ってきたの。テニス部において、彼女の居場所は無くなってしまったわ。それでも、その子は高校での大会出場の夢を諦めなかった。だから練習だけはどんなに苦しくても努力し続けた。二年になれば、三年になれば、先輩達の圧力も無くなるだろうと思って、必死で耐え続けてきたの。でも、三年生になって、彼女はテニス選手としての実力があるにも関わらず、彼女は大会に出場する事が出来なかったわ。顧問から、彼女の協調性の無さを指摘されて大会出場を外されてしまったの。ねえ、世の中って不条理よね。彼女は必死で頑張っていたのに。大会は二人一組で出場する形式のものだったから、誰も彼女と組みたがらなかったというものも大きいわ」

 話し続ける、アスカの顔はどこか怖い。

 きっと、気のせいだろう。

「それで、結局、その子は自殺してしまった。それからしばらくして、その子が使っていたテニス部のロッカーに、奇妙な事が起こるようになったの。どんな事だと思う?」

「彼女の幽霊が出るとか?」

 僕は訊ねる。

「そうね。彼女の幽霊だと思うわ。でも、彼女の姿は現れなかった。彼女は亡くなった後、そのロッカーは後輩の一人に、新しく使われる事になったのだけど、その度に、ロッカーに入れた私物が壊れたりするの、服の着替えだったら破けたりとか。ノートを入れたら、意味不明な絵や文字が書かれた落書きばかりだった事もあるの。……もう分かるでしょう? 彼女が受けたイジメが再現されていたわけ。……ロッカーを使っていた後輩は、その日のうちに、テニス部を止めたわ。それから、そのロッカーを使う度に、中に入れた私物がボロボロになってしまうの。そのロッカーは、今でもそのテニス部に置いてある」

 僕達二人は息を飲んだ。

 イジメ……。誰もが学校生活を送る上で、とても近くにあるものだった。

「怖いですね……」

 僕は言う。

「そう、怖いわね。でも、話はこれだけで終わりじゃないの。私は逆さま幽霊の話って言ったわ。この怪談の事は、逆さま幽霊という事で、その学校の中で伝えられているの。それはなんでだと思う?」

「分からない、なんでだい?」

 ヨシキは訊ねた。

「イジメられて、自殺した子は、テニス部の部室で首をくくって死んでいたの。最初、みんな単なる自殺だと思ったらしいわ。でも、彼女の両脚には、縛られた形跡があった。そして、彼女の全身に殴打された痕も。そんな状態でも、警察は自殺、と断定したらしいわ。噂によると、校長や関係者が必死で警察に捜査の追求をさせるのを、もみ消したのかもしれない。……ただ、一番、納得いかなかったのは、死んだ本人だったと思う」

 アスカの影が、ロウソクの明かりで不気味に伸びていくかのようだった。

「彼女が死んだと思われる時間帯に、彼女が逆さ吊りにされて女子テニス部の部室の中で現れるという噂が立ったわ。目撃者は何名もいると。夜中の一時くらいだと思う。彼女の顔は何かを訴えかけているみたいだって。……その怪談を聞いて以来、私は女子テニス部を辞めて、手芸部に入る事にしたわ。何故なら、私が彼女のロッカーを使うように先輩から言われちゃって。同じ目に合いたくないもの。女の嫉妬って怖いわね。ねえ、二人とも、彼女は本当に自殺したのだと思う?」

 ヨシキは蒼ざめたような顔をしていた。

 そういえば、彼は小学校の頃、クラスメイトの一人を面白半分でからかっていたと聞く。子供のやる事なんて、そんなものだ。でも、そのクラスメイトはそれが直接の原因なのか知らないが、転校してしまった。彼は今でも、その事を気に病んでいるらしい。

「これで、私の話は終わり。ロウソクを消すわね」

 そう言うと、アスカは、ロウソクの一本を吹き消した。

 周囲に、少しだけ闇が深まる。

「じゃあ、俺の話をするぞ」

 ヨシキは、お茶の入ったペット・ボトルを開けて、それを口に含む。

 そして、一息付いてから話し始める。

「さっきのアスカの話が怖すぎたから、俺の話は大した事は無いかもしれない。俺が大学に入って、体験した話だ。自動車免許を取った年の事なんだが、ドライブが趣味になってな。その年の冬に調子に乗って、遭難してしまったんだ。その事は以前、二人にも話した事があると思う。でも、遭難した時に起こった詳しい事を話すのは、今日が初めてなんじゃないかな?」

 僕とアスカは頷く。

 ヨシキが、雪の降る場所で遭難した事は知っているが、その事を詳細に教えて貰った事は無い。何故か、いつもはぐらかしてきたのだ。

「あれは、T県までドライブに行った時の事だ。今日も雪が降って、寒いのだけど、その日の雪はこんなものじゃなかった。とにかく、その日は豪雪で、ひたすらに雪が降り注いで、ワイパーでひたすらに正面ガラスに付いてくる雪を振り落としながら、田舎道を進んでいたな。俺は知っての通り、どこともなくあてのないドライブをする事が大好きなんだが、あの日ほど、自分のいい加減さを呪った事は無かったな」

 ヨシキは、憂鬱そうな顔になっていた。

「その土地の土地勘が無くても、カーナビがあるから、なんとか戻れると思った。でも、突然、カーナビが故障したんだ。原因不明だった。当時は地図が表示されるスマートフォンも持っていなく、ガラケーを使っていた為に、完全に八方塞がりになってしまったんだ。暖房は付いていて車内は暖かかったけど、ガソリンはどんどん無くなっていった。給油所も見つからない。更に悪い事に携帯電話の充電も切れかかっていたんだが。とにかく、不運が続いていた。そんな時に、あるものに出会ったんだ」

 暗闇の中、ロウソクの炎で、ヨシキの顔が映る。

「足音が沢山、近付いてくるんだ。それも、一人や二人じゃない。十名以上はいたんじゃないかな。白い雪に塗れて、なんだか分からなかったのだけど、彼らは白装束を着ているんだ。四国のお遍路さんみたいな服って言ったらいいのかな。分からないかな。杖もって、傘みたいなのかぶってさ。やってくるんだよ、何名も。こんな雪の中。どう考えても人間じゃないだろ? 気付いたら、タイヤがスリップしていて、動かなくなっていたんだよ。逃げたいんだけど、外は雪じゃん? これ逃げても、絶対に凍死するよなあ、って。とにかく、俺は息をひそめてやり過ごす事にした。……っていっても、車の中で息をひそめるってのも何だけどな。ひとまず、エンジンを止めて、座席の下に隠れる事にした」

 ヨシキは、思い出して震えていた。

「とにかく、その白装束の奴らは怖かったな。窓からちらちらと覗くと、確かにこちらに向かってくるんだよ、俺は何度も鍵がかかっている事を確認した。しかも、そいつら、顔がよく見えないんだよ。眼の鼻も無かったような気がする。不気味なんてもんじゃないよ、幽霊なのか妖怪なのか分からないけどさ。そいつら、何か変な呪文を唱えながら、俺の車のすぐ傍まで来たんだ」

 僕とアスカは聞いていて、息を飲む。

 ヨシキは、またペット・ボトルに口を付けた。

「そいつら、車の外で俺を取り囲んでいたんだ。何か話し始めていたんだよ。最初、何を言っているか分からなかったけど、だんだん、何を言っているか分かってきてから、俺は震え続けた。なんでも、俺をどうするか話し合っているみたいなんだよ。連れていこうか、とか。どこに連れていくか、とか。どこに連れていこうとしているんだよ、って。俺はその時、頭の中で必死で南無阿弥陀仏とか唱えていた……」

 彼は、お茶を飲み干す。

「そして、気が付いたら、俺は見覚えのある道にいたんだ。見覚えのあるコンビニがあって、その田舎道に迷う前の場所にさ。雪は相変わらず降っていたんだけど、どうにかして、俺は来た道を戻っていたらしい。……もしかすると、迷い込んだのかもしれないな。奴らの領域みたいなものに。奴らが一体、何だったのかは今でも分からない。すまんな、あんまり怖くなかったか、とにかく俺は助かったんだけど、今でもあれは夢に出てくる。俺の話は終わりな」

 そう言うと、ヨシキはロウソクの火を消す。

 残りのロウソクは一本だけになる。

 いよいよ、僕の番だった。

 僕は、自分の体験を話し始めた。

「じゃあ、話すよ。これは、僕が大学生になってからの話だ。知っての通り、僕は映画マニアで、よくDVDを観る。ブルーレイは綺麗だよな、ブルーレイになって、僕は凄く画質に感動した。……話が逸れたな。僕は、馴染みのレンタルビデオ店で、いつものようにDVDを拝借していたんだ。そこは個人店で、今でもDVDやブルーレイじゃなくて、ビデオ・テープが借りられる場所だった。古いビデオ・デッキなんて持っている客なんて、今時、そう多くない筈なのに、初老の店主は頑固そうにそんなのものの貸し出しを今でも行っているんだ。マニアックな奴が多いんだろうな、そんな僕も、実はマニアの一人で、ネット・オークションで買った、古いビデオ・デッキをTVに繋いで、古いビデオなんて観ていたんだ。ブルーレイの綺麗な画質とは違った良さがあってさ、昔の荒い画質にはそれなりの良さがあるんだよ」

「好きだな、それで?」

 僕の趣味語りが少し続いて、ヨシキは苦笑する。

「ごめん、ごめん。それで、怖い話だったな。僕は、その馴染みのレンタルビデオ店で、謎のビデオ・テープを見つけたんだ。何の表装も無い黒いパッケージの奴、僕は店主に聞いたんだ、これは何か? って。そしたら、店主もよく分からないって言うんだ。場所は洋画のホーム・ドラマのコーナーだったんだけど、店主も何だか分からないって。でも、何故か処分する気になれなくて、置いてあるって言った。最初は仕切りか何かの代わりだと思ったんだけど、やっぱり違ったみたい。店主は僕に、そのテープをくれたよ」

 僕は、あの映像の事を話しながら、思い出していく。

「それで、家に帰ってさ。さっそく観てみたんだ。何が映っているかって。多分、間違えてパッケージが無くなっているだけで、中身は何か有名な洋画だろうと思っていた。……そしたら、どうも違った。最初、意味の分からない映像が続いていた…………」

 僕はオレンジ・ジュースの缶を開ける。

 そして、しばらく果汁に満ちたそれを口にする。

「最初、橋が映っていたと思う。何が映っているのか、分からなかった。どうやら、橋の下にホームレスらしき人が住んでいるんだ。彼は怯えた顔をしていた。その後、ホームレスは何かで殴られたんだ。アングルがおかしくってさ。なんなのだろう、この映像はって。本当に全然、何か分からなかった。サスペンス・ドラマか何かかって思ったんだけど、どうも舞台は日本で、作りが完全に素人なんだ。そもそも音響効果も何も無いし。でも、だんだん、何が映っているのか分かってきたんだ。……どうやら、そのホームレスらしき人をしきりに脅しているんだよ。こんなところに身を潜めていたのかって……」

 僕は、二杯目のジュースの缶を開く。

 あの映像の事を思い出すと、本当に気持ち悪くなってくる。

「分かったんだよ、僕は、それは家庭用ビデオ・カメラで取られたものだって。そして、これは多分“本物”なんだって。そのホームレスが何度か映されるんだけど、借金がどうとか、夜逃げがどうとかって話が聞こえてきて。……撮影しているぞ、って。映像を進めていくうちに、そのホームレスは川に何度も顔を沈められてさ。しばらくして、動かなくなった。……更に続きがあったんだ」

 僕は、だんだん思い出して気持ち悪くなってくる。

 やはり、話さなければ良かったかもしれない。

「次は女の人だった。キャミソールを着ていて、煙草を吸っていた。部屋の中にいて、かなり散らかって、ゴミだらけだった。その女の人はかなり怖がっていた。撮影されている事と、これから何をされるか。男の人の手が見えて、手にはハンマーが握られていた。いきなり、女の人はハンマーで殴られて、血を流して…………」

 僕は口元を押さえる。

「その後、僕は早送りにした。映像は続いていて、色々な人が映っていて、……みんな同じようにされていた。なんていうのかな、これって、いわゆる“スナッフ・フィルム”って言うのかな。……なんで、あのレンタルビデオ店に置いてあったのか分からないんだよ、店主にも分からなかった」

 やはり……、話さなかった方が良かったかもしれない。

 けれども、誰かに話したくて、ずっと言えずにいた。

 僕の胸は、少しずつ晴れていく。

 二人共、絶句していた。

 下手な心霊現象よりも、怖かったかもしれない。

「僕は、翌日、あのレンタルビデオ店に向かった。そしたら、閉まっていた。開いている日だった筈なのに。その次の日も閉まっていた」

 僕は、二杯目の缶ジュースを空にする。

「ある日、大学から帰った後、僕の跡を付けている奴がいたんだ。僕は気持ち悪くなって、何度も迂回したけど、ついに追い付かれてさ。後ろから、囁かれたんだ。“あのビデオはすぐに指定された方法で、お前のアパートのゴミ箱の傍に置いておけ”って。口元を塞がれて、後ろを見たら、帰れなくなるって言われた……」

 ……もし、振り返ってしまったら、僕はどうなっていたのだろうか……。

「僕は指定されたように、ビデオ・テープを箱に収めて、赤いテープでぐるぐる巻きにすると、分かりやすいように、段ボールに“禁”と書いて、ゴミ捨て場の近くに置いておいた。その次の日、段ボールは無くなっていた。その日はゴミ収集の車が来る日じゃなかったから、奴らの誰かが持ち去ったのだと思う。僕の推測だけど、多分、あのビデオ店を一時的な隠し場所に使っていたんじゃないかな。あの後、知ったんだけど、店主が階段から突き落とされて、昏睡状態になったらしい。僕はあれ以来、あのビデオ店には近付いていない。店がどうなっているのかも分からない……」

 僕は、息を大きく吸うと、そして最後のロウソクを吹き消した。

「これで、僕の話は終わり。二人と違って、幽霊の話じゃなくてすまなかった。でも、僕にとって本当に怖い出来事だった」

「やっぱり、一番怖いのは、人間ね」

 アスカはそんな事を言った。

 ヨシキは引き攣った笑いをしていた。

「そろそろ、夜も明ける。じゃあ、怪談は終わろうか」

 僕は、部屋の外に出ようとする。

 後ろの二人は動かない。

「どうした?」

 二人は僕を見つめていた。

 何処か、寂しそうな顔をしていた。

「ごめんな、少し外には出られそうにない」

「本当は、貴方も一緒に来て欲しかったんだけど。貴方の話を聞いて、なんだか肩すかしを食らちゃって……」

「お前、悪運強そうだから、大丈夫だろ」

「でも、なんとなく納得出来た」

 外から、光が漏れ出してくる。

 

 気付くと、僕は車の中にいた。

 外は、ちろちろ、と雪が降っている。

 窓ガラスが大きく破損している。

 僕は後部座席にいた。

 頭から血を流している。

 運転していたヨシキは死んでいた、多分、即死だったと思う。

 アスカの方は、シートベルトを付け忘れて、やはり頭を強く打って死んでいた。僕達は、峠をドライブしていて、激突したのだった。

 僕はその光景を見て、また気を失った。

 

 次に目が覚めたのは、病院の中だった。

 僕は頭蓋骨にヒビが入り、更にあちこちに大きな打撲を負うという重傷だったが、なんとか息を吹き返したらしい。後遺症の可能性は低いとの事だった。

 後から、警察に聞かされた事だが、ヨシキの車のブレーキには細工がされていたらしい。その後、しばらくの間は、何も無かった。

 ……実は、例のビデオ・テープは、ダビングして、家の中に保管していたのだった。そして、あのサークルの集まりで、二人に現物を見せようと考えていた。

 だが、持っていたテープは、見つからなかった。持ち去られたのだろう、と、僕は結論する。それで良かったし、二人が死んでしまったのは、僕の責任だ……。

 

 あれから、僕には何も起こらない。アスカとヨシキは、僕を酷く恨んでいるのだろう。でも、僕は平穏に暮らしている。

 幽霊と生きた人間、どちらが本当に怖いのだろうか。僕はTVの特集などで、怖い話、といった文字を見る度に、そんな事を思うのだった。


 

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