作者:遠坂 絵美
「タツキくんのバカ!」
私は思いっきり大声でそう言うと、耳にあてていたスマホをベッドに投げつけた。ぼふっとまぬけな音を立ててベッドに落ちたスマホの画面はしばらく通話中になっていたけど、私がじっと見ているうちに通話は切れてしまった。
にじんだ涙をふきながら私はスマホを拾い上げる。しばらくじっと画面を見ていたけど、ごめんの一言のメッセージすらない。タツキくんのバカ、私は今度は小さくつぶやいて、ごろんとベッドに寝転がった。
家が近所で、幼稚園から小学校までずっと一緒だったタツキくん。中学校も一緒だと思っていたのに急な引っ越しで離れてしまった。
それでもなんだかんだずっとメッセージを送りあったり、さっきみたいに電話したり、していたのに、「もう連絡してこないで」って言われるなんて。
たしかにもう中学も三年生で、おさななじみなんかより仲良しの友達がお互いできていたっておかしくないといえばおかしくはない。……タツキくんに好きな人ができていたって、おかしくないんだ。
そう思うと気分がずんっと落ちこんだ。私はずっとタツキくんがいちばんなのに、タツキくんはそうじゃなかったんだと思うとまた涙がこぼれそうになる。
「アヤー? ごはんよー?」
廊下から、お母さんの声。さっきの電話の声は廊下にはたぶんもれてないと思う。変に心配させたくないし、私は涙をぬぐって、はーい、と大きく返事をした。
それから、本当にタツキくんと連絡がとれなくなった。メッセージを送っても、既読はつくけど返事はこない。たまに返ってきたと思ったら「連絡しないでって言ったでしょ」。
いちいち傷つくのもいやで、高校受験も近いし、ぽっかりした気持ちを抱えたまま私もそのうちタツキくんにメッセージを送らなくなった。
そして、第一希望の高校の合格発表の日。最近はネットで結果を見られたりするけど、記念に行っておいでってお母さんに言われたから私は寒い中しぶしぶ発表を見にいった。
番号はあった。ほっと息をついたところで、ぽんっと後ろから肩を叩かれた。振り返ると、ぐっと大人っぽくなって背が伸びて、でもはっきりわかる――タツキくんの姿。
「タ、ツキくん……?」
「久しぶり」
あまりにタツキくんがあっさりした様子なので、私はかえってどう話したらいいのかわからない。
「番号、あった?」
「う、うん。あったよ」
「よかった。これで一緒のところに通える」
「え……?」
まだ混乱している私に、タツキくんは説明してくれる。私の第一希望の高校に行くにはタツキくんはちょっと成績が悪くて、勉強に集中したくて私との連絡をとらないようにしていたらしい。
「そうならそうと、言ってくれればよかったのに」
「それじゃサプライズにならないだろ?」
……もう!
「タツキくんのバカ!」
私はそう言って、いたずらっぽく笑っているタツキくんに思いっきり飛びついた。