ヴィジュアル系ロックバンド

↑「あとで」は、しおり代わりに使えるよ↑

  前:雪かきの音

 


 

作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

今回はヴィジュアル系バンドの話みたいだよ。

バンドみたいなキラキラした場所は、おいらの知らない世界だよ。

どんな話なんだろ。ワクワクするね。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

今から20年くらい前、僕は高校生でした。今の若者たちはユーチューバーとかいうものに夢中らしいですが、僕くらいの世代の人間が高校生だった頃は、ロックバンドに夢中になっていました。ただのロックバンドではなく、派手な髪型や色にメイクをしたヴィジュアル系ロックバンドです。

ギター雑誌もCDも飛ぶように売れて、男子高生たちはバイト代をはたいて3万円程度の安物ギターに群がったものです。僕もその一人でした。

ある4人組ロックバンドに憧れて、同じクラスの友人たちとバンドを組みました。僕はギターで、ベースはAくん、ドラムはBくん、花形のボーカルはCくんが担当しました。

「バンドマンは女にモテる」と思い込んでいた僕たちは、音楽雑誌を回し読みしては憧れのバンドマンの髪型やファッションを真似て、有名曲のコピーに勤しんでいました。

あのバンドマンみたいにかっこよくギターを弾きたい、女にモテたい…男子高生がロックバンドをやる最初の理由なんてそんなものです。僕もAもBもそんな感じでした。

しかし、Cだけは「いつか自分は東京に行ってメジャーデビューするんだ」と本気になって音楽に取り込んでいました。

彼はすらりと背が高く色白で、男から見ても美形に思えました。歌も非常に上手かったので、ボーカルとしても魅力的な男でした。

そんなCは、いつまでもコピーバンドをやっているのが不満で、度々僕たちに「オリジナルをやろう」と提案して来ました。

根が真面目で志が高く本気で音楽と向き合う彼の姿勢は、とても素晴らしいものですが、まだ子供だった僕たちには今で言うところの「意識高い系」に見えていたのです。

僕たち3人は、そんなCをよくからかって遊んでいました。

「本気でバンドで食っていこうなんて、何真面目になっちゃってんの?」

「お前は確かに上手いけど、東京じゃ相手にされないって」

などの言葉を浴びせては笑っていました。その度にCは、悔しそうに唇を噛んで俯くのです。それがまたおかしくて仕方ありませんでした。

ダラダラとバンドを続けていたある日、Cはカセットテープを3枚持ってきました。

「これ、俺が作ったオリジナル曲。仮歌入れて来た」

それはCが初めて作った曲でした。彼はギターも出来たので、自分でギターを弾きながら仮歌を入れたのでしょう。ドラムのBがテープを受け取り、ふぅんと気のない声を出してポケットにしまってしまいました。

Cはそれを見て、

「おい、聞いてくれよ。オリジナル練習しようぜ」

と怒ったような声で言いました。僕たちはニヤニヤと笑いながら

「あー、はいはい。気が向いたらやるよ」

と言いました。Cは大きく深呼吸をし、苛立った様子で教室を飛び出して帰ってしまいました。

それから一週間後、Cは下校途中に交通事故で亡くなりました。

Cが急死して、僕たちのバンドは誰が言うわけでもなく自然と解散してしまい、そのまま卒業しました。

あれから20年、僕はどこにでもいる普通のサラリーマンになりロックバンドとは無縁の日々を送っていました。あの頃憧れたロックバンドの報道を目にするたびに、AやBやCのことを思い出します。

そういえば、Cの作った曲。聞かずじまいだったな…

そう考えていた頃に、久しぶりにAから電話が来ました。成人式以来だったので懐かしく思いましたが、電話の向こうのAの様子はどこか怯えているようにも聞こえました。

「お前さ、Cの持って来たカセットテープ…聞いたことある?」

突然何を言い出すんだと思いながら「いや、無いよ」と答えました。Aはそれ聞いてみろよ、早く、と言い出したので押入れから古いラジカセと例のカセットテープを引っ張り出して再生しました。

曲はどこか陰鬱としたメロディーで、Aの声も何を歌っているのか分からない謎の言葉に聞こえました。

「なんだこれ。これ歌になってないぞ」

「それ、逆再生してみろよ…」

Aの指示に従い、テープを逆再生してみました。

すると、ようやく何を歌っているのかが理解できました。

許さない 許さない

呪われろ どこまでも 追いかけて

まずはあいつ 次はあいつ

そして

次はお前だ

掠れて鬱々としたCの声に、僕はゾクッと背筋を凍らせました。すぐに分かりました。これは僕たちに向けた恨みの声なのだと…

いじめていた僕たちへの呪いの歌なのだと…

「これ、Aも聞いたの?そういや、Bはどうしたんだよ」

「Bは1か月前にこれ聞いて、先週死んだらしい」

電話の向こうのAはいつの間にか涙声になっていました。

「俺たち、恨まれてるよ…死んじゃうよ、俺たち…」

それから一週間後、Aは駅の階段から足を踏み外し亡くなりました。

あのCの歌声が頭の中から離れてくれません。

許さない 許さない

呪われろ どこまでも 追いかけて

まずはあいつ 次はあいつ

そして

次はお前だ

夢を笑った賠償はあまりにも大きすぎます。

 

霊感少女・黄泉子
え……

死んじゃう系は、洒落にならないよ……

  前:雪かきの音

  次:不思議な少女

作品は著作権で保護されています。

\ シェアしよう /