インディーズバンド

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

バンドってカッコいいよね。

おいらも楽器やってみようかな。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

今はしがない会社員やってるけど、若い頃はロックバンドやってたんだよ。

といっても、インディーズだったけどね。いつかメジャーデビューして、ドームツアーやるんだ!なんて夢見てたけど、そんなものは夢のまた夢で、ドームツアーどころかメジャーにも行けずに解散。

ロックバンドにはよくあることだよ。

生活出来てたかって?無理無理。インディーズバンドだけで食ってくなんて、よっぽどじゃなきゃ無理だよ。

スタジオ代や物販の製作費、ライブのためのハコ代、CDのプレス代…その他楽器や機材、ライブの移動費、打ち上げ代。

チケット売ってCD売ってグッズ売っても、なかなか収入にはならない。赤字なんて普通にあるからね。

バンドってね、意外と金がかかるよ。

それでもバンド続けてたのは、やっぱりロックが好きだったのと、デビューしたいって気持ちがあったからなんだよね。

良い曲作れたらワクワクしたし、ライブが盛り上がったら興奮したし、ファンの子から応援されたら嬉しかった。

それは俺以外のメンバーも同じだった。

俺がやってたバンドには、俺以外に4人のメンバーがいた。

ボーカルのA、リードギターのB、サイドギターのC、ベースの俺、ドラムのDの5人バンド。

バンドメンバーの入れ替りってよくあるけど、うちのバンドは一部のパートを抜かしてほとんど無かった。

ただ、その一部のパート…リードギターが問題だった。

何故メンバーを入れ替えたかと言うと、担当してた奴が自殺したからなんだ。

Bの自殺をきっかけに、俺のバンドではおかしなことが増えた…今思い出しても、やっぱり不気味だよ。

俺たちが体験した不気味なことを話す前に、Bの自殺について話しとかなきゃいけない。

Bは他のメンバーと同じで、バンドを作った時から一緒だった。

こいつが結構変わった奴でさ、悪い奴じゃないんだけどひどく繊細な男だった。気分の浮沈みが激しくて、上手く人間関係を築けない性格だった。

ニルヴァーナのボーカルだったカート・コバーンに憧れてて、金髪にして伸ばしてたっけ。

繊細でガラス玉のような男だったけど、ギターの腕前は驚くほど上手かったよ。

音に表情があるって言うのかな…表現力がずば抜けていた。柔らかい音、重い音、攻撃的だったり優しかったり…まさに自由自在だった。

Bのギターが加わるだけでワクワクしたし、俺たちもBに負けないようにと練習に励んだ。

正直、Bがなんで俺たちのバンドにいたのか不思議なんだよね。あいつくらい技術があれば、もっと上手くて人気のあるバンドに入れたと思う。

でもBが俺たちのバンドにいたのは、メンバーと性格的に合ってたんだろうな。

「僕はみんなと演奏するのが好きだな」

と言ってたのを覚えている。

そんなBが自殺したのは、ある日突然のことだった。

当時Bが付き合ってた女が浮気をして、B を捨てて出ていったんだ。

傷付いたBはひどく落ち込んで、アパートで首を吊った。

気分が落ち込んだことで、衝動的に自殺したようだった。

Bの家族も俺たちも、バンドのファンにも衝撃的な出来事だった。すごく悲しかったし、悔しかったよ。この時点で解散することも考えた。

それでも俺たちは、新しいメンバーを加えて新たなスタートを切った。

 

Bの自殺から2か月後、俺たちは単独ライブを行った。

小規模なものだったけど、満員になりライブは大盛況。新メンバーのEも俺たちに馴染んできた頃だった。

ライブの終盤、初期の頃からライブの定番曲になっている曲を披露した時…何か違和感のようなものを覚えた。

最初に気付いたのはボーカルのAだ。歌いながら客席ではなく、俺たちに何か視線を送り訴えている。

彼の視線に気付いて、ベースの俺、サイドギターのC、ドラムのDが辺りに注意を払う…

俺たちが演奏するのとは、別の音が混じっているような…そんな違和感を覚えた。

自然と視線は、新メンバーのリードギター、Eへと集まる。

彼は怯えたような戸惑うような、およそステージには相応しくない表情を浮かべていた。

機材から聞こえてくるリードギターの音色は、明らかにEのものではなかった。

ギターの音というのは指紋みたいなもので、同じ曲でも奏者によってガラッと雰囲気が変わる。

この音色を、俺はよく知っている…。巧みな表現力、尖ったサウンド…Bのものだ。

俺以外のメンバーもそれに気付いて、演奏を止めた。

静まり返るステージ…だが、Eのギターと繋がっているアンプからは、Bの奏でるギターの音色が生き物のように唸っていた。

演出だと思っている観客はさらに熱狂したけど、俺たちは死んだはずのBの、聞こえるはずのないギターの音色に背筋を凍らせていた…。

 

あの件があってから、Eはバンドを抜けた。

自殺したメンバーの音が聞こえるなんて不気味だと言って…

その後も何人かリードギターを入れたけど、練習中に自分以外の誰かの気配を感じるだとか、収録した新曲のギターの音が自分の演奏しているものじゃないとか…そんなことが何度もあって、入っては抜けて入っては抜けてを繰り返した。

やがて「自殺したメンバーがとり憑いているバンド」という不名誉な噂は広まり、リードギターを募集しても誰も寄り付かなくなった。

俺たちもライブや新曲作りをするのが怖くなってしまった。

演奏をするたびに、そこにBがいるような…そんな気配を全員が感じていたからだ。

もう続けられない…そう思った俺たちはバンドを解散することにした。事情が事情なだけに、解散ライブはしなかった。その代わり、メンバー全員でちょっとした慰安旅行をして、その日を境に活動を止めた。

慰安旅行は近場のキャンプ場だった。せっかくだから写真を…と撮った、みんな笑顔のバーベキュー風景。

そこには、カート・コバーンのような長髪の男の顔が写りこんでいた…

やはりBは、自殺した後も俺たちとずっと一緒にいたんだ……

きっとBはずっと俺たちとバンドを続けたかったのかもしれない。

たまに、夢に出てくるんだよ…

「ねぇ、バンドやろうよ」ってさ……

 

霊感少女・黄泉子
ラストの夢っていうのが、ありそうな感じで怖いよっ。

楽器やるの怖くなっちゃったよ……。

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