トンネル坊や

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

おいら、トンネル好きだよ。

秘密の抜け穴みたいでワクワクするんだ。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

僕が子供のころ、実家の近くに公園がありました。正式な名前は今も分かりませんが、近所の人や子供たちからは「トンネル公園」と呼ばれて親しまれていました。父が小学生の頃にできた公園だと聞いていますので、相当古いのだと思います。

なぜ「トンネル公園」なのかと言うと、古いタイヤや大きな土管でできた迷路のようなトンネルの遊具があったからです。

大人が入っても楽しめるような仕様になっていましたので、僕が子供のころも父や母と四つん這いになってトンネル遊びを楽しんでいました。

うねうねと迷路のようなトンネルを進んで遊ぶ事を。子供達の間ではゲームのスーパーマリオから連想して「マリオごっこ」と呼ばれていました。

僕が小学校3年生の時、いつものようにランドセルを背負ったまま友達とトンネル公園に行き、ベンチにランドセルを山積みにして遊んでいました。

30センチ定規を使ってチャンバラごっこをやったり、ルールを改変した缶蹴りをやったり…今思うと、何が楽しかったのかよく分からない遊びに夢中になっていました。

中でも僕たちが夢中になっていたのは、トンネルレースです。

トンネル公園にある土管のトンネルに複数の入り口があり、公園中央のジャングルジムの麓に繋がっていました。

僕たちはその複数のトンネルから入り、誰が最初にジャングルジムに辿り着くのかという競争をよくやっていました。

その日も僕と同級生3人はトンネルレースをやっていました。

「よーい、どん!」で僕たちはささっと四つん這いになり、薄暗いトンネルを進んでいきました。

トンネルの中は埃っぽく、たまに煙草の臭いがします。きっと近所の中学生や高校生が親に隠れて煙草を吸っているせいでしょう。

いつも一位を取れない僕は、今日こそは一番乗りしてやろうと息巻いていました。

むっと噎せ返るような空気の中を進み、何度目の角を曲がります。最初は友達のはしゃぐ声が聞こえていましたが、段々と声は届かなくなり、土管の中を通り抜ける風の音ばかりが耳に入ってきました。

僕は、なんだか不安いなってきました。薄暗い空間は次第に闇が深まり、空気そのものがひんやりとしてきました。

大声を出そうかなと思いながら角を曲がると、その先に人の姿を見つけました。

友達と鉢合わせしたか!と咄嗟に思いましたが、それは一緒にスタートをした同級生の誰でもなく、見たこともない男の子でした。

僕よりも年下…小学校1年生か2年生くらいだったと思います。トンネルの中で膝を抱えて座る男の子は、無表情に僕をじっと見つめていました。

「どこ行くの?」

ややかすれた声で問いかけられました。僕はトンネルの真ん中に座って通行を阻害している少年に少し苛つきながら

「ジャングルジムまで行くんだよ。悪いけどさ、そこちょっと通してくれない?今日こそは一等になりたいんだよ俺」

僕が言うと、彼は幼い顔ににやりと笑みを浮かべて僕を見つめました。

「ぼく、連れってあげようか?」

たったそれだけの言葉だったのに、何か嫌な感じがしました。子供が口にするには、どこか粘着質な…気味の悪さがまとわりついた言い方だったのです。

僕は首を振って、いいよ、と断りました。

「俺一人でいい。誰かに案内されて一等になっても、それはずるっこだ」

少年の返事を待たずに、僕は彼を押しのけてずんずんとトンネルを進んでいきました。

そうしているうちにやっと僕はゴールに辿り着きました。残念ながら、僕の順位は2位でしたが晴れやかな気持ちでした。

その日、家に帰って公園での出来事を夕食の席で話しました。僕が2位になったことを両親は喜んでくれましたが、トンネルの中で出会った少年の話をすると、父が真顔になりました。

詳しく話してくれと言われたので、少年とのやり取りを詳しく話すと、父は箸を置いてゆっくりとした口調で言葉を選ぶようにしながら僕に言いました。

「その男の子の話はお父さんが中学生くらいの頃からある。トンネル坊やと呼ばれていたっけなぁ。何があっても、何を聞かれても彼についていってはいけないよ。二度と戻ってこれないからね…」

その時僕は、お父さんは何を言っているんだろうと思っていました。

あぁなるほど、都市伝説のようなものかと…。

 

それから数十年。僕は結婚し娘が生まれ、実家の近くに家を買いました。小学生になったばかりの娘は、よく友達とあのトンネル公園に遊びに行きます。

ある日、娘がマセた口調で僕に言ってきました。

「パパ、あのトンネルの中で座り込んでいる悪い子がいるのよ。あたしを見て、連れってってあげようか?ですって」

僕はぞくりと、粘着質な薄気味悪さを思い出しました。そして、娘に目線を合わせてこう言ったのです。

「あの男の子はな、パパのパパの頃から話があるんだよ…トンネル坊やっていうんだよ…」

あの少年がどこへ「連れて行く」のかはわかりません。しかし、きっと僕の孫も見る事になるのでしょう。

あのトンネル公園がある限り…

 

霊感少女・黄泉子
こんな話を聞いちゃったら、怖くてトンネルに入れなくなりそうだよ。

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作品は著作権で保護されています。

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