前:不思議な少女
作画:chole(黄泉子)
かれこれ十数年前の話。
当時、出会い系サイトの全盛期とでも言おうか。
ネット上には無数の出会い系サイトが溢れていた。
俺もそれら出会い系をちょこちょこ利用していて、異性との出会いも多かった。
だがあることがきっかけで、俺は出会いサイトから足を洗うことになる。
その日は、一人の女と待ち合わせをしていた。
まだ携帯にカメラが付いていない時代だ。
容姿は自己申告を信じるしかなかった。
その女が言うには、当時人気だった某・美人女優に似ているらしく、俺はかなり期待していた。
だが、待ち合わせ場所に来たのはお世辞ににも美人とは言えない女で、某・美人女優には似ても似つかない容姿だった。
がっくりする俺などお構いなしに、女は会うなり「ホテルに行きたい」と言い出した。
俺は軽いノリで了承した。
ホテルに入り、二人でジュースを飲んだ。
何の会話をしたのかあまり覚えていない。
覚えているのは、猛烈に眠くなったことだ。
ここまで強烈な眠気を感じたのは、後にも先にもそのときだけだった。
起きていようと目に力を入れるも、無駄な抵抗だった。
眠気には逆らえなかった。
……痛みで目を覚ました。
いつの間にか眠っていたようだ。
右腕が痛い。
重い瞼を強引に開いて、腕を見る。
視界がボンヤリしていて、よく見えない。
……徐々にはっきりしてくる視界。
俺は腕は真っ赤に染まっている。
血を流していたのだ。
なんで?
いつ怪我したんだ?
そう思った次の瞬間、ベッドの横に人が立っていることに気が付いた。
見ると、血まみれの女が笑顔でこちらを見下ろしているではないか。
女は下着姿で口の周りが真っ赤だった。
口の周りには血がついているようだ。
すぐに、その血が俺のものだと分かった。
寝ている間に、俺は噛みつかれていたのだ。
全身に冷や水を浴びたようにゾッとした。
「てめぇ。なにしてんだよ」
ボンヤリする頭で、精一杯ドスを利かせてみたが効果はなかったようだ。
もしかすると、俺は声が震えていたかもしれない。
女はニヤニヤとこちらを見下ろしている。
「なあ、勘弁してくれよ。俺、もう帰るから」
俺はフラフラする体で立ち上がると、自分の荷物を掴み外に出た。
フラフラ状態のため、戦っても勝てる気がしなかった。
女に腕を掴まれるのではないかと気が気でなかったが、女は俺を止めようとはしなかった。
ホテルから出た俺は、泣いていた。
恐ろしさと、不安、女から逃げることができた安堵感。
いろんな感情が入り混じっていて、言葉にしづらい。
しばらく涙が止まらなかった。
その後、腕の傷は自然に治っていった。
それほど深い傷ではなかったようだった。
あの女がなんだったのか、今でもわからない。
あれ以来、俺は出会い系サイトを利用しなくなった。
十数年たった今も、俺の右腕にはうっすら傷跡が残っている。
傷跡が残るのも嫌だし、おいらはその女性と絶対に出会いたくないッ。
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今回はネットの怖さが感じられる話みたいだよ。
一緒に見ていこう。