自殺サークル

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

サークル活動って聞くと楽しそうだけど、自殺サークルっていうのがあるみたいだよ。

怖い響きだね。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

集団自殺って、ここ数年増えましたよね。

実は僕も昔やろうとしたことかあるんですよ。今はこうして生きてますから、結局は死ななかったわけですが…

 

あれは、僕がある飲食店の店長をやっていた頃でした。

飲食業界はブラック…そう言われているでしょう?まさにその通りですよ。

朝は8時半から仕込みと開店準備。少ない人数でランチの混雑をさばき、パートさんに夜の仕込みを任せて僕は事務所で事務作業…シフトを作ったり、色々ですね。その後は夕方からバイトたちと夜帯を乗り切り、閉店作業…家に帰るのは午前2時とか当たり前です。

休みなんてほとんどありませんよ。

パートさんたちのわがままや、ある日突然来なくなるバイト…その尻拭いはすべて僕一人で補います。

店長なんだから当然と言われてしまえばそれまでですが、やってられませんよ。

体もガタガタ、精神はズタズタ。当時の僕は本当に疲れきっていました。

うつ病にでもなってたかもしれません。休みがないから病院には行ってませんが。

そんな状態だと、仕事を辞めようと思わないんですよ。

「死ねば仕事行かなくていいんだ、よし、死のう」ってなる。

いつの頃からか、僕は毎日のように死のう死のうと考えていました。

ただ困ったことに、一人でどう死ねばいいかまで考えがいかないんです。

首吊りは吊る場所がなかなか見つからないし、飛び降りは建物の所有者や近隣の人に迷惑だし。

どうしたもんかなぁと思っていたある日、SNSであることを呟いている人を見つけたんです。

「一緒に死んでくれる人。いませんか?」

普通なら、なんて物騒な…と思ってしまいますが、その時の僕には渡りに船でした。

その人と連絡を取り合ってみると、僕以外にも何人からか連絡をもらっているようでした。

全員と話をし、集まれる日…つまり自殺決行日を決めて落ち合うことになりました。

その日僕は、無理矢理有給を取りました。今まで一度も使ったことがなかったのです、最期くらい良いでしょう。どうせ死ぬのだから本部の小言などどうでもいい。

夜19時にS駅で待ち合わせ…本当にみんな来るのだろうかと不安に駆られましたが、待ち合わせ時刻の5分前には全員が集まりました。

人数は僕を含めて5人です。

まずは最期の晩餐を…と言われ、駅前にある居酒屋に入りました。

生ビールを飲みながら、まずは自己紹介。

主宰者のAは30代後半くらいの男性で、家のローンで首が回らなくなり自殺しようと思ったそうです。

Bは水商売風の若い女性でした。友達も親もいない、将来に希望が持てないというのが理由…。

Cはまだ大学生くらいの男性で、毒親から逃げたくて自殺するようです。

Dは少しぽっちゃりした20代後半の女性で、育児ノイローゼを患っていました。

みんなそれぞれ事情があり、この世とおさらばしたいと思っていることは確かでした。

「どうせ死ぬのだから、最期の晩餐はハメを外そう!」

と言わんばかりに、彼らは多いに飲んで多いに食べました。(Aは後で運転をするので飲みませんでしたが)

その宴は、僕には異様に見えました。

食べきれるか分からないほど料理を注文し、酒も泥酔しているにも関わらず飲みまくる…他の客に絡む。

BとCはその場で脱ぎ出すのではないかとヒヤヒヤするほど絡み合っていました。

こんな奴等と僕は死ぬのか…

一人頭が冷えていくのを感じていたその時、携帯電話が鳴りました。トイレに行くふりをして出てみると、バイトの女の子からです。

「店長!助けてください。先輩がバイトすっぽかして、今私一人なんです!お客さんどんどん来ちゃって、私だけじゃ駄目です!」

学生バイトがワンオペ状態…しかも彼女は調理が出来ません。

僕は反射的に「今すぐ行く。お客様にはお時間を頂戴しますと行っておいて」と言い切り、どんちゃん騒ぎをしている彼らはには何も言わずに店を出ました。

 

結局僕は、仕事を捨てきれず自殺し損ねたのです。

その日の2日後、県境の峠道で集団自殺をした車が発見されたというニュースを見ました。男女4人の遺体が見つかったと…

あれは間違いなく、僕が一緒に自殺しようとしていたABCDたちです。

僕を残して、彼らは本当にこの世からいなくなった……なんとも後味が悪い。こんなこと忘れてしまえ。そう自分に言い聞かせてました。

 

しかしその日以降、僕の身の回りで奇妙なことが起きるようになりました。

職場の事務所でシフトを作っている時です。固定電話が鳴りました。

「お電話ありがとうございます。●●店です。ご予約のお電話でしょうか?」

いつもの調子で出ると、電話の向こうからはザザザ…ザザザ…と変な音が小さく聞こえて来るばかりです。

悪戯か…と思っていた、その時…

『逃げたな、裏切り者』

絞り出すような男の声が聞こえて来ました。ぞく…とうなじが粟立ちました。

それは、聞いたことのある声…Aの声だったのです。

咄嗟に電話を切り、荒くなった呼吸を整えていると…今度は僕の携帯電話が鳴りました。

画面には…Bの電話番号。

自殺決行日前、待ち合わせのためにみんなで電話番号を交換し合っていました。登録したまま、僕は忘れていたのです…

このまま無視をしようか…しかし切れる気配はありません。

僕は、電話に出てみました…

「もしもし…?」

小さな声で言うと、ザザザ…ザザザ…という不快音の中から…

『逃げたわね、臆病者』

Bの囁くような声が聞こえて来ました。

ひい!と上擦った悲鳴をあげて電話を切ると、事務所の中には静寂が戻りました。

これは誰かの悪戯なのか…あまりの気持ち悪さに、しばらく電話が怖くなりました。

別の日のことです。夜の閉店作業を終えた私は、店から自宅への帰路についていました。

時刻は日付が変わったくらい。通りにはほとんど人がいませんでした。

街灯の頼りない明かりの下を歩いていると、正面から誰かが歩いてきます。

若い男と少しぽっちゃりした女性のシルエット…見覚えのある姿で、思わず立ち止まり、はっと息を呑みました…

白い顔をしたCとDが、瞬きもせずに僕をじっと見つめたまま…ゆっくりと近付いて来たのです。

口が僅かに動いています…

『裏切り者』と……

僕は声にならない叫び声をあげて、来た道を駆け戻り、めちゃくちゃな道順で家まで逃げました。

彼らは、僕が自殺しなかったことを怒っている!

一緒に死のうと言ったのに、裏切ったと怨んでいる!

何故そこまで怨まれるんだ…理不尽だ!

僕の中に、恐怖と怒りと戸惑いが渦巻き、どうしたらいいか分からなくなりました。

落ち着こうと、走ってカラカラに渇いた喉に、冷蔵庫で冷やしていたビールと日本酒を一気に流し込みました。

僕は悪くない…僕は悪くない…そう言い聞かせているうちに、いつしか眠ってしまい、ひどい体のだるさで目が覚めました。

目を覚ました時、目に入ってきたのは見慣れた天井ではありませんでした。

青白い顔をしたABCDが僕を囲んで、じぃ…っと見下ろしていたのです…

口はこう動いていました。

『一緒に死のう』と……

 

あれから転職して、少しはまともな仕事に就きましたが、まだ死にたいと思うことはありますよ。

それは仕事が辛いからとかではありません。

まだね、彼らが僕に言うんですよ…『裏切り者、一緒に死のう』って…。

逃げ出した僕を怨んでいるんです。

彼らから逃げるためには、僕もどこかで死ななきゃいけない…そう思っているんです。

 

霊感少女・黄泉子
人間の怖い話かと思いきや、怪談だったね……

一緒に死のうなんて、言われたくないよ……。

しかも、この先ずっと言われそうだもんね。怖すぎ……

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