ぴよちゃん

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

おいら、ひよこって触ったことないかも。

一回くらい触ってみたいな。

動物大好きなんだッ。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

小学生のころ、養鶏所をやっている親戚からひよこの卵をもらったことがあります。

なぜ卵をくれたかは覚えていませんが、私と2つ上の姉がその当時ひよこのキャラクターグッズにハマっていたせいかもしれません。

「割らないように気を付けてね。孵化したら、自分の赤ちゃんだと思って大事に大事にひよこちゃんを育てるんだよ」

親戚のおじさんが丁寧に孵化のさせ方やひよこの育て方を教えてくれて、子供用のひよこの育児本までプレゼントしてくれました。

ちょうど夏休みの前だったこともあり、私と姉は「夏休みの自由研究はひよこの絵日記にしよう」とワクワクしていました。

昔はお祭りなんかでひよこが売っていましたので、私より年上の人はお祭りでひよこを買って育てた経験のある人が少なくありません。

しかし、卵から孵化させて育てるとなると話は別です。

私も姉も金魚や猫は飼ったことがありますが、ひよこを孵化させて育てるというのは初めてのことでした。

親戚のおじさんから借りた家庭用孵化器を使い、二週間ほど様子を見ました。

見た目はスーパーで売っているただの卵です。こんな何の変哲もない卵からどうやってひよこが誕生するのか…私と姉はいつ生まれるかと期待に胸を膨らませ、ひよこの飼い方について一生懸命勉強しました。

卵をもらって20日ほど経った日の朝、姉の甲高い声で目を覚ましました。

「ねえ見て!ひよこ、生まれてる!」

二段ベッドから飛び起きて孵化器の中を見ると、まだ体の湿ったひよこがか細い声でピヨピヨと鳴いていました。

よくあるイラストや映像の中のひよこには程遠いものですが、初めて見た誕生したばかりのひよこの姿に私と姉は感動し、きゃあきゃあと声をあげて喜びました。

「お父さんとお母さんにも見せなくちゃ!ぴよちゃん、ちょっと見ててね」

さっそく“ぴよちゃん”と命名されたひよこを両親に見せるため、姉は大声を張り上げながら1階へと降りて行きました。

部屋に残った私は、じっとぴよちゃんを見つめました。まだ小さく細い体…この命は私たち姉妹の育て方にかかっているのだと、責任の重大さを改めて感じました。

その時、ふとぴよちゃんの瞳に違和感を覚えました。

ひよこの目は、真っ黒のはずです。

しかしぴよちゃんは、どこか深い赤のような色に見えたのです…

なんだろう…もしかして病気なのかな…?

お医者さんに行った方がいいのかな…と考えましたが、生まれたばかりで体が整っていないのかもしれないと思い、まずは様子を見ることにしました。

孵化してから一週間が経ち、ぴよちゃんは飼育用のガラスケースの中ですくすく育ちました。

ひよこらしいふわふわの体毛を身に着け、おじさんからもらった雛用の餌もよく食べます。私たちを母親だと思っているのか、私たちの姿を見つけると「ぴぃ、ぴぃ」と可愛らしい声で鳴くものですから、余計に可愛く見えてくるのです。

すでに夏休みに入っていたため、姉と二人で毎日絵日記をつけていました。こういった生き物の観察日記にはありがちなことですが、毎日何か大きな変化があるわけでもないため、毎日同じようなことばかりが書かれてしまいます。

実際、私たちの絵日記もそんな感じで、ここ数日間は「今日もよく食べて元気に鳴いてました」というのばかりです。子供の絵日記なんてそんなものです。

しかし、同じことを書いていても姉妹で書き方が違います。

姉は文章は適当でしたが、色鉛筆を上手に使って綺麗に絵を描いていました。

私はと言うと、絵が苦手でしたので絵はほどほどに描き、文章で細かく記録をつけていました。今日は餌を何g食べたとか、鳴き声はこんな風に変わったとか…そういった些細なことも書くようにして、文章欄を埋めていったのです。

その日も、姉と二人でぴよちゃんの観察日記をつけていました。

私たちの姿を見て鳴くぴよちゃんに、可愛いね可愛いねと声をかけながら筆を進めていると、ぴよちゃんの餌入れが空になっていることに気付きました。

「この子はよく食べるね」

姉がひよこ用の餌をひと掴みしパラパラと餌入れに入れると、ぴよちゃんは待ってましたと言わんばかりに餌をついばみだしました。

確か1時間前に餌を入れたはずなのに、もうこんなにお腹を空かせているのかと思いましたが、それにしては食べ過ぎです。

「お姉ちゃん。ぴよちゃん、ちょっと食べ過ぎなんじゃない?」

「そう?食い意地張ってるだけだよ」

「でもさ、生まれてからの餌の量見ると、毎日倍近く増えているよ。お腹壊しちゃうんじゃない?」

「大丈夫だよ。いっぱい食べて大きくなるよ!」

楽観的に答える姉に言い返したい気持ちもありましたが、本当に食欲旺盛なだけという可能性もあります。

孵化した日に見た、深い赤い目も、まだそのままです。こういう品種なのか、ひよことはそういうものなのか…私は答えを出せませんでした。

餌をついばむ姿を観察するため、ガラスケースに顔を近付けじっと見ていると…ぴよちゃんのくちばしに妙なものを見つけました。

くちばしの内側に、突起物があったのです。

見た瞬間、それは歯だと分かりました。小さな小さな、人間の赤ちゃんのような歯です。

私の視線を感じたのか、ぴよちゃんは私の方へと顔を向け、じっ…と赤い目で私を見つめ、

きぃぃ…!きぃぃぃ…っ!

と鋭い鳴き声をあげました。

それは、どう聞いてもひよこの出す声ではありませんでした。まるで獲物を狙う猛禽類のような、けたたましい鳴き声でした。

ひっ!とガラスケースから後ずさり、姉の方へと顔を向けると、姉は呑気に「ぴよちゃん元気だね」と笑っていました。

これは、ひよこなんかじゃない…とんでもないものを育てているのではないか…

不安な気持ちは、日々募っていきました。

翌朝、私はある実験をしてみることにしました。庭にいたカナヘビを一匹捕まえてきて、ぴよちゃんに与えてみようと思ったのです。

ただでさえストレスに弱いひよこに爬虫類をぶつけるなど、やってはいけないことですが、その時の私は最早ぴよちゃんがひよこに見えなくなっていたのです。

私は姉がプールに行っている間に庭にいた大き目のカナヘビを捕まえ、ぴよちゃんのいるガラスケースに放り込みました。

最初はパニック状態になって鳴いていたぴよちゃんでしたが、カナヘビを正面に捕らえると、

ぎぃぃぃ!ぎぎぃぃぃ!

と歯を見せて威嚇するように鳴き始め、素早くカナヘビの頭に食らい付きました。

まだ小さな足で暴れるカナヘビを押さえつけ、ブチブチ…!と音を立てて頭と胴を食い千切り、頭を砕いて食べ始めました。

そして驚くことに、小さな翼を広げると3本の鉤爪のようなものが見えたのです。

これは絶対にひよこなんかじゃない!化け物だ!

ガクガクと足を震わせ、グロテスクなぴよちゃんの食事風景に慄いていると、姉がプールから帰って来ました。

部屋に入って来た姉は、私の様子に驚き、ガラスケースの中を見て顔を青くしました。

「あんた、ぴよちゃんに何したの!?」

「お姉ちゃん、このひよこ、変だよ…ひよこなんかじゃないよ、化け物だよ」

「何を言ってるの?まだ育ってないのに!」

「こんなの育てちゃ駄目だよ。捨てよう!」

ガラスケースに手を突っ込み、カナヘビの体液まみれになっているぴよちゃんを掴み上げると、姉の制止を振り切って窓の外へと放り投げました。

小さな体は庭へと落ちましたが、2階からでは生死を確認できません。

外に出てみるべきだろうかと思っていたその時…

ぎゃぎゃぎゃ…!ぎぎッ…ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ…ッ!

不気味な鳴き声が響きました。私と姉は窓から身を乗り出し、庭をじっと見つめていると、ぴよちゃんが落ちたらしい地点にうごめく何かがいました。

じっと目を凝らしてみると…四つん這いになった黄色い体毛の生き物がいました…

鉤爪で芝を引っ掻きながら、まるで匍匐前進をするように移動する異形の生き物。

ぎゃぁ…ぎゃぎゃぎゃ…ッ!ぎぇッぎぇ…!

濁った鳴き声を上げながら、その生き物はトカゲのような素早さで庭から道路側の植え込みへと走り去っていきました。

あの不気味な生き物は一体なんだったのか、いまだに分かりません。

気になるのは、親戚のおじさんはあの卵が何の卵か知った上で私たちに渡したのかということ。

残念ながらそのおじさんは夏の終わりに亡くなってしまい、もう聞くことはできません。

しかし、知った上で私たちにくれたのなら…あの養鶏所で育てられているのは本当に鶏なんでしょうか…

 

霊感少女・黄泉子
この話読んだら、ひよこに触るのが怖くなっちゃったよっ……。

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