廃墟で見たもの

↑「あとで」は、しおり代わりに使えるよ↑

  前:髪を欲する

 


 

作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

廃墟好きな人って、いるみたいだね。

確かに、不気味な雰囲気が味わえて、楽しそう。

おいらも、行ってみたいなっ。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

僕が大学生のころ、写真を趣味にしていた時期がありました。昔と比べて一眼レフカメラも安く手に入るようになり、手軽に持てるミラーレスカメラも手頃な価格なのに高性能なものが増えましたので、アルバイトと仕送りで生活している学生でも始めやすい趣味でした。

大学の写真部に集まる連中は、僕と同じく大学に入ってアルバイトをするようになってから、カメラをいじり始めたという人ばかりでした。

写真が趣味と一言に言っても、何を撮るかは人それぞれです。

身近な人にモデルをやってもらって撮るポートレート。寺社仏閣などの歴史建造物を撮る。動物や虫を撮る。山や森、川などの自然の風景を撮る。雑貨をおしゃれに撮る。葉や花などの植物をアップで撮る…など様々です。アニメやゲームのコスプレをしている女の子を撮るのが好きという先輩もいましたので、同じ写真部でも、被写体の好みで仲良くなる人が決まってきます。

僕は風景や動物を撮るのも好きでしたが、一番好きなのは廃墟でした。

しかし、廃墟なんてどこにでもあるものではありませんので、SNSや廃墟マニアが運営しているブログなどを見て情報収集をする必要があります。今は廃墟に関する本も多数出版されているので、写真部の廃墟好きたちで回し読みをして、休みの日はみんなで廃墟撮影に出掛けていました。

よく一緒に廃墟に行っていたのは、僕と同学年のAとB、4年生のC先輩です。

秋になった頃。写真部の飲み会がありました。みんなはスマートフォンやタブレットで撮影した写真を見せ合ったりしていましたが、僕たち廃墟好きメンバーは、夏休み中は廃墟に行っていなかったので、そろそろみんなで撮影しに行こうかと話し合っていました。

「日帰りできそうなところは、結構行ったし。そろそろ関西や東北に足を延ばしてもいいんじゃないか?」

Aが言うとC先輩がそうだなぁと考えるように唸り、

「車で5時間くらいのところだけど、ちょっと面白そうな廃墟をネットで見つけたんだ。一泊二日の小旅行にはなるけど、前日の夜中に出発すれば早くから撮影ができる。車なら俺が出すよ」

C先輩は自分がその廃墟を見つけたというサイトを見せてくれました。

これまで民家やホテル、旅館などの廃墟に行くことが多かったのですが、先輩が教えてくれた廃墟は過疎地域…それも限界集落の外れにある小学校でした。

学校の廃墟は初めてだ!とテンションが上がった僕たちは、ビールを仰ぎながら廃墟撮影旅行の計画を練りました。

実際に旅行に行ったのはそれから1か月ほど経った土日でした。金曜日の夜に待ち合わせをし、夕食を食べてからC先輩の車で移動します。

4人で交代しながら運転し、明け方には目的地の集落から一番近い市に到着しましたので、ファミレスの駐車場で仮眠をとってから朝食を食べて例の限界集落へと向かいました。

僕の中で限界集落というと、住民の少ない田舎というイメージでした。しかし実際に集落の中を走っていると、ただの田舎よりもゴーストタウンという言葉が似合う場所だと感じました。

家と家の間隔が異様に広く、家のほとんどが空き家でした。かろうじて商店などが並ぶ通りに入っても、錆び付いたシャッターや看板、雑草の生えた屋根が目立ちます。新しめの建物はというと、訪問介護などをやっている施設でした。田舎に行くとこういった介護施設は新しくて大きなものですが、ここのは非常に小さく、それだけでこの集落にいる住民が少ないと分かります。

「何かあっても、ここじゃ助け呼べないよなぁ…」

窓の外を眺めながら呟いたBの言葉に、僕は得体の知れない不安感がよぎりました。

目的地の廃墟についたのは、午後になってからでした。午前中までは晴れていたのに、雲が出始めたので撮影には不向きの天候になってしまいました。

ですが、天候など気にならないくらいこの廃墟はとても魅力的なものでした。まるで昭和の映画に出て来そうな平屋の木造校舎で、屋根が崩れているとか壁に穴が開いているといった目に見える老朽化が見られない綺麗なものでした。

校庭に車を停めて、僕たちは子供のようにはしゃぎながら廃墟へと入って行きました。曇り空のせいで、校舎内は非常に暗く見えます。

埃っぽい独特の匂いと澱んだ空気、そして心霊スポットというわけでもないのに、なぜか背中にゾクリと走る寒気が僕たちを興奮させました。

「意外と廊下が長いなぁ。明度調整したらすごいいいのが撮れたよ」

「教室の黒板、子供の落書きが残っているぞ」

「理科室がいかにも廃墟って感じで怖いなぁ」

それぞれ独り言のように言いながら、好き勝手に移動して撮影を始めました。僕は長く伸びる廊下や下駄箱を撮影するのに夢中でした。

どれくらい時間が経ったか分かりませんが、しばらくしてAが廊下の奥から戻ってきました。

「あのさ、ちょっといいか?」

真顔…いや、少し青ざめたような顔色をしてAが僕に聞いてきました。たまたまそこにBとC先輩も戻って来たので、どうしたんだよ、とみんなで問いかけました。

「ちょっとさ、廊下の奥の方、すごい臭うんだよ…」

「え?臭いってこと?」

「そう。奥に行くほど臭いからさ、ちょっと怖くなって戻って来たんだ」

「理科室にあったものが悪くなって臭い出してるんじゃない?」

「いや、理科室はC先輩が出て来たところだからもっと手前。下駄箱から俺見てたし」

「ちょっと、みんなで見に行かないか…?」

僕とAとBの会話を黙って聞いていたC先輩が提案した。普通なら「幽霊が出るんじゃないか」と怯えるような場面だが、廃墟によく足を運ぶ僕たちは1つの可能性を頭に思い浮かべていた。

この廃墟の中に死体がある。

廃墟に住み着いていたホームレスが死んでしまい、それが発見されるというニュースも時々出て来る。僕たちはまだそういった経験をしていないが、廃墟の中で死体を見つけるという可能性は無いわけではない。

C先輩の提案を受け入れ、僕たちはAが「臭う」と言った廊下の奥の方へと進んでいきました。理科室と3つほど教室を過ぎて、職員室を過ぎた辺りから、異様な臭気を感じました。

排泄物と腐臭が混じり合ったような、日常生活ではまず嗅ぐことのない、吐き気を催すような嫌な臭いでした。

突き当りの扉には「多目的室」と書かれています。その扉の前で一層臭いはきつくなりました。先頭を歩いていたC先輩は、僕たちに視線だけで「開けるぞ」と言い、口元をハンカチで覆いながら扉を開けました。

部屋の中を覗き見た僕は、思わずヒッと声をあげました。

中には死体はありませんでした。

代わりに、体中をあざだらけにした男が全裸で椅子に縛り付けられていました。

その人物は年齢や人相が分からないくらい顔を腫れあがらせており、血と鼻水で汚れていました。そしてよく見ると、腹に安全ピンをいくつもつけており、床に置かれた足は、甲のところを釘で打ち付けられていました。

椅子も床も排泄物と血で汚れており、僕たちが嗅いだ臭気はこの排泄物と血の臭いだったのです。

叫び声すらあげられず、硬直していると、男が呻き声をあげました。

「あぁ…たすけ、たすけて…おねがいです、ゆるして……ちゃんと、お金、返しますから……」

僕たちに気付いていないのか、男はしわがれた声でずっとうわ言のように呟いています。すぐにでも通報しなければ…そう思っていると、C先輩が顔を真っ青にして扉を閉めました。

「おい。ここを出るぞ…」

突然走り出した先輩に驚きながらも、僕たちは廊下を駆け抜け校舎を離れ、すぐに車のエンジンをかけて廃墟を後にしました。

車が来ないことを良いことに、C先輩はスピードを上げて商店が点在する地域まで走らせました。

C先輩はある商店の前にある公衆電話を見つけると、路上駐車をして公衆電話からどこかに電話をかけました。

戻って来た先輩に、

「どこに電話してきたんですか?」

「警察に通報してきた」

「それなら、スマホからでもいいじゃないですか」

「……あんまり関わらない方がいいよ。もうホテルに向かおう」

僕たちはそのまま予約したホテルに一泊し、帰路につきました。

後日、僕たちはC先輩に廃墟で見たあの男のことを聞いてみました。そしたら、確かな話じゃないけど…と断った上で話をしてくれました。

「あの男、お金返しますからって言ってただろ?多分、あれはヤバいところから金を借りて返さなかった…もしくは返せなくなった奴なんじゃないかな…。ヤバいところじゃなくても、誰かから金を借りてそれが原因で拷問されたのかもしれない。あの廃墟は限界集落の中にあって人が寄り付かないし、俺たちみたいな廃墟好きだってしょっちゅう来る場所じゃない。野垂れ死にさせるには良い場所なんだろうよ」

あの男が助かったのか、それは分かりません。しかし、それ以来僕は廃墟に行くことはありませんでした。

もし廃墟に行きたいという人は、くれぐれもご注意ください。幽霊が出るとか、足元が危ないとか…それだけが怖いのではありません。

もしかしたら扉の向こうで、拷問の末に野ざらしにされている人を見つけてしまうかもしれませんから…

 

霊感少女・黄泉子
前言撤回させてねっ。

廃墟、怖くて行きたくないよっ。

  前:髪を欲する

  次:風俗嬢の闇

作品は著作権で保護されています。

\ シェアしよう /