風俗嬢の闇

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

今回の話は、おいらの知らない世界。

知らない世界……未知の世界……

まさに、ホラーだねっ。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

「嫌われ松子の一生」という映画をご存知ですか?あの映画は、ある女性の波乱万丈な一生を描いた、悲しくもおかしい日本映画です。

その映画の主人公である松子は、あることをきっかけにトルコ風呂で働くことになります。

トルコ風呂とは今で言うソープです。あの映画の時代設定は昭和ですので、そういった昔の呼び方をしています。

松子はいわゆる「風呂落ち」をしたわけですが、現代だと風俗だけなくキャバクラなどの水商売も、手軽に大金を稼げる女の子のアルバイトになっています。

昔と比べて、水商売や風俗に後ろ暗さがなくなってきたということでしょう。

しかし、風俗の世界はかつて「苦界」と呼ばれたような怖い世界です。

私は以前、風俗業界に関わっていたことがあります。そこで見たものはナイトワーク系の求人誌にあるような明るい可愛らしいものばかりではありませんでした。

ある歓楽街のヘルス店に身を置いていたAさん。彼女は24歳のOLでした。昼間の仕事だけでは生活できず、こちらの世界に足を踏み入れたのだと言います。

今風の綺麗なお嬢さんという感じの、可愛らしい子でした。売れっ子にはなれなくても、地味に売れて行くだろうと考えられていましたが、彼女はまったく売れることがありませんでした。

風俗は何もしなくて稼げると考えられがちですが、実際は何か月間か自分を売り込む努力を積み重ねていかなくては、お客さんがついてきません。Aさんには、そういった努力が見られなかったのです。

Aさんは生活のために稼がなくてはならないと躍起になり、お店のホームページでの顔出しやグラビアもやるようになりました。しかし、これが仇となります。

彼女の勤務していた会社に風俗店に勤務していることがバレて、会社をクビになってしまったのです。やがて家族にもバレてしまい、絶縁状態になりました。

彼女は週4日、店のオープンから夜9時まで働きました。働く時間が増えたことで月収はそこそこ上がりましたが、精神的に病んでしまい、稼いだ金のほとんどをストレス発散や通院代に費やしてしまいました。

この女はもうダメだな…

店長もスタッフにも見放され、店にピックアップもされなくなり、Aさんはさらに金銭的に厳しくなっていきます。

そしてAさんは、ついに本番行為に手を出してしまったのです。

本番行為とは、こういった商売では禁止されている性行為そのもののことです。これやれば客がつくと思ったのでしょう。しかし、彼女が本番をやっているという噂はネットの掲示板で話題になり、店のスタッフの耳にも届きました。

Aさんは店をクビになり、その歓楽街界隈の店では雇ってもらえなくなってしまいました。

私はこの店で電話番や雑用バイトとして働いていたのですが、それから2年ほど経って休日に偶然Aさんと再会しました。

大きな歓楽街で働けなくなり、堅気の仕事も出来なくなった彼女は、場末のアブノーマル系ヘルス店に勤めていました。ちゃんと届け出をしている店なのかも怪しいところでした。

それは、嘔吐や排泄行為といったものを伴うSM店で、体にも精神にも大きな負担をかけるものでした。

毎日のように過食と嘔吐を繰り返し、下剤を飲んでいる彼女の体は、以前よりもずっと細くなり、目だけがぎょろぎょろと動く不気味なものとなっていたのです。

「ねえ、雑用さん。私の彼氏に会っていかない?アパート近いからさ」

立ち話もなんだから、とAさんは笑って私を促しました。嫌な予感がすると心の中で思いましたが、怖いもの見たさでついて行くことにしました。

家族から絶縁された彼女は頼るところもなく、今はアパートで彼氏と同棲生活を送っているようです。

学生が住んでいそうな2階建手アパートの1階に彼女の部屋はありました。

「私の彼氏、ホストをやってるの。夜は仕事なんだけど昼間は家にいるから」

ただいま、と声をかけながらドアを開けるAさん。

すると、室内からはムッと噎せ返るような糞尿と腐敗の臭いがしました。反射的にハンドタオルで鼻と口を覆い中を覗き見ると、小さな台所には所狭しとご飯やおかずの残ったコンビニ弁当の容器と、スープや綿が僅かに残ったカップ麺の容器が並んでいました。饐えたような腐敗臭は、この残飯から漂ってきているのでしょう。

そして、床には変色した染みや路上の片隅に排泄された犬猫の糞のようなものが転がっていました。

「Aさん、この床の染みと糞みたいなのは何…?」

私がおそるおそる聞くと、Aさんは驚くことも恥じることもなく言いました。

「あぁ、これね。彼氏がまた粗相をしちゃったみたい。彼ね、たまにやっちゃうのよ」

どういうことだろう…。狭い台所を越えた先の居住スペースにその答えはありました。

衣類やペットボトル、酒瓶、薬のフィルムケースが散乱する汚らしい部屋に置かれた小さなテーブルの前で、一人の男性が裸で寝そべっていました。

私は彼を見て、息を呑みました。

不健康に痩せた若い男性が、介護用のおむつを履いていたのです。

根元の黒くなった金髪と宙を見つめる虚ろな目が、異常さを際立たせていました。

呆然と立ちすくむ私に、Aさんはにこやかに言いました。

「雑用さんなら分かると思うけど、ホストってストレスが溜まるお仕事なの。ストレスでたまに漏らしちゃったりするのよ。彼はあんまり稼げてないホストだから、私が支えてあげなきゃ…」

そして、Aさんは彼に寄り添うように座り驚くべきことを口にしました。

「私ね、彼と赤ちゃん作ろうと思うの。孫が出来たら、さすがのお父さんとお母さんも私や孫に会いたくなると思うから…」

私は臭いと異常さに耐え切れなくなり、挨拶もそこそこにアパートを去りました。

その後、Aさんが本当に妊娠したかは分かりません。

ただのOLだったAさんが、たった数年で人間関係も精神も崩壊し、ストレスで排泄もままならない売れないホストに入れ込むようになったことに、今でも恐ろしさを感じます。

一攫千金、高収入を夢見て風俗に足を踏み入れる若い女の子は後を絶ちません。

しかしこの世界は、今も昔も闇はとことん深いのです…

 

霊感少女・黄泉子
社会の闇って感じがするよ。

しかも、この話……恐ろしいことに、実話だそうだよっ。

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作品は著作権で保護されています。

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