前:ママブロガー
作画:chole(黄泉子)
今はしがない会社員やってるけど、若い頃はロックバンドやってたんだよ。
といっても、インディーズだったけどね。いつかメジャーデビューして、ドームツアーやるんだ!なんて夢見てたけど、そんなものは夢のまた夢で、ドームツアーどころかメジャーにも行けずに解散。
ロックバンドにはよくあることだよ。
生活出来てたかって?無理無理。インディーズバンドだけで食ってくなんて、よっぽどじゃなきゃ無理だよ。
スタジオ代や物販の製作費、ライブのためのハコ代、CDのプレス代…その他楽器や機材、ライブの移動費、打ち上げ代。
チケット売ってCD売ってグッズ売っても、なかなか収入にはならない。赤字なんて普通にあるからね。
バンドってね、意外と金がかかるよ。
それでもバンド続けてたのは、やっぱりロックが好きだったのと、デビューしたいって気持ちがあったからなんだよね。
良い曲作れたらワクワクしたし、ライブが盛り上がったら興奮したし、ファンの子から応援されたら嬉しかった。
それは俺以外のメンバーも同じだった。
俺がやってたバンドには、俺以外に4人のメンバーがいた。
ボーカルのA、リードギターのB、サイドギターのC、ベースの俺、ドラムのDの5人バンド。
バンドメンバーの入れ替りってよくあるけど、うちのバンドは一部のパートを抜かしてほとんど無かった。
ただ、その一部のパート…リードギターが問題だった。
何故メンバーを入れ替えたかと言うと、担当してた奴が自殺したからなんだ。
Bの自殺をきっかけに、俺のバンドではおかしなことが増えた…今思い出しても、やっぱり不気味だよ。
俺たちが体験した不気味なことを話す前に、Bの自殺について話しとかなきゃいけない。
Bは他のメンバーと同じで、バンドを作った時から一緒だった。
こいつが結構変わった奴でさ、悪い奴じゃないんだけどひどく繊細な男だった。気分の浮沈みが激しくて、上手く人間関係を築けない性格だった。
ニルヴァーナのボーカルだったカート・コバーンに憧れてて、金髪にして伸ばしてたっけ。
繊細でガラス玉のような男だったけど、ギターの腕前は驚くほど上手かったよ。
音に表情があるって言うのかな…表現力がずば抜けていた。柔らかい音、重い音、攻撃的だったり優しかったり…まさに自由自在だった。
Bのギターが加わるだけでワクワクしたし、俺たちもBに負けないようにと練習に励んだ。
正直、Bがなんで俺たちのバンドにいたのか不思議なんだよね。あいつくらい技術があれば、もっと上手くて人気のあるバンドに入れたと思う。
でもBが俺たちのバンドにいたのは、メンバーと性格的に合ってたんだろうな。
「僕はみんなと演奏するのが好きだな」
と言ってたのを覚えている。
そんなBが自殺したのは、ある日突然のことだった。
当時Bが付き合ってた女が浮気をして、B を捨てて出ていったんだ。
傷付いたBはひどく落ち込んで、アパートで首を吊った。
気分が落ち込んだことで、衝動的に自殺したようだった。
Bの家族も俺たちも、バンドのファンにも衝撃的な出来事だった。すごく悲しかったし、悔しかったよ。この時点で解散することも考えた。
それでも俺たちは、新しいメンバーを加えて新たなスタートを切った。
Bの自殺から2か月後、俺たちは単独ライブを行った。
小規模なものだったけど、満員になりライブは大盛況。新メンバーのEも俺たちに馴染んできた頃だった。
ライブの終盤、初期の頃からライブの定番曲になっている曲を披露した時…何か違和感のようなものを覚えた。
最初に気付いたのはボーカルのAだ。歌いながら客席ではなく、俺たちに何か視線を送り訴えている。
彼の視線に気付いて、ベースの俺、サイドギターのC、ドラムのDが辺りに注意を払う…
俺たちが演奏するのとは、別の音が混じっているような…そんな違和感を覚えた。
自然と視線は、新メンバーのリードギター、Eへと集まる。
彼は怯えたような戸惑うような、およそステージには相応しくない表情を浮かべていた。
機材から聞こえてくるリードギターの音色は、明らかにEのものではなかった。
ギターの音というのは指紋みたいなもので、同じ曲でも奏者によってガラッと雰囲気が変わる。
この音色を、俺はよく知っている…。巧みな表現力、尖ったサウンド…Bのものだ。
俺以外のメンバーもそれに気付いて、演奏を止めた。
静まり返るステージ…だが、Eのギターと繋がっているアンプからは、Bの奏でるギターの音色が生き物のように唸っていた。
演出だと思っている観客はさらに熱狂したけど、俺たちは死んだはずのBの、聞こえるはずのないギターの音色に背筋を凍らせていた…。
あの件があってから、Eはバンドを抜けた。
自殺したメンバーの音が聞こえるなんて不気味だと言って…
その後も何人かリードギターを入れたけど、練習中に自分以外の誰かの気配を感じるだとか、収録した新曲のギターの音が自分の演奏しているものじゃないとか…そんなことが何度もあって、入っては抜けて入っては抜けてを繰り返した。
やがて「自殺したメンバーがとり憑いているバンド」という不名誉な噂は広まり、リードギターを募集しても誰も寄り付かなくなった。
俺たちもライブや新曲作りをするのが怖くなってしまった。
演奏をするたびに、そこにBがいるような…そんな気配を全員が感じていたからだ。
もう続けられない…そう思った俺たちはバンドを解散することにした。事情が事情なだけに、解散ライブはしなかった。その代わり、メンバー全員でちょっとした慰安旅行をして、その日を境に活動を止めた。
慰安旅行は近場のキャンプ場だった。せっかくだから写真を…と撮った、みんな笑顔のバーベキュー風景。
そこには、カート・コバーンのような長髪の男の顔が写りこんでいた…
やはりBは、自殺した後も俺たちとずっと一緒にいたんだ……
きっとBはずっと俺たちとバンドを続けたかったのかもしれない。
たまに、夢に出てくるんだよ…
「ねぇ、バンドやろうよ」ってさ……
楽器やるの怖くなっちゃったよ……。
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バンドってカッコいいよね。
おいらも楽器やってみようかな。