嘘の心霊スポットY谷橋

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

自殺の名所って、ホントにあるみたいだね。

おいら、肝試しでも、自殺の名所には行きたくないな。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

大学3年の夏休みに、地元のM県に里帰りをしました。

夏休みが明けたら卒論や就活で忙しくなり、いつ里帰りができるか分からないので、1か月ほど滞在する予定にしていました。

私は高校を卒業後、すぐに東京に出て行きましたが、友人たちの多くはまだ地元に残っています。

家業を継いだり、M県の大学に通ったり…中には結婚して専業主婦になった子もいました。昔のように時間の融通が利かない生活リズムの場合、長い期間の里帰りは好都合でした。

時間はたっぷりありますので、友人たちの都合に合わせて会うことが出来ます。

8月の中旬に、中学の頃の同級生のSちゃんと会うことになりました。彼女はM県内の大学に通っていましたが、夏休み中はバイトが忙しく夜しか会う時間がありませんでした。

20時頃にバイトが終わるというので、そのくらいの時間に待ち合わせをし、私の実家の近くにあるファミレスで遅い夕食を食べながら、他愛ない話に花を咲かせました。

ドリンクバーだけで何時間も席を占領しているのは、さすがに店に申し訳なく思えて来たので23時を回った頃に店を後にしました。

「ねえ、この後どうする?」

Sちゃんが自分の軽自動車の鍵を開けながら言いました。

このまま解散しても不思議ではない時間ですが、久しぶりに友達と会ったのに、ファミレスでおしゃべりをしておしまい…というのもなんだか勿体ない気がします。

「カラオケにでも行く?」

「うぅん…カラオケは高いしなぁ。深夜料金だと結構いっちゃうし」

お盆シーズンで深夜…となると、カラオケは居酒屋に行くよりも高くなります。たった数時間でそれだけの金額が飛んでいくのは、あまり好ましくありません。

「ねえ、折角だしさ。ドライブでもしない?私のちっこい軽自動車でも良ければ」

「いいね!行こう、行こう!」

私たちは車に乗り込み、行き先も決めずに走り出しました。

夜の住宅街は死んだように静まり返り、車の通りもありません。私たちの母校の前にある真っ直ぐでアップダウンのある道を、スピード違反ギリギリの速さで一気に走り抜ける快感は、中学の時には味わえなかったものでした。

行き先を決めずに駅前の大通りまでやって来ましたが、Sちゃんは唐突にこんなことを言いだしました。

「ねえ、お盆だし心霊スポットにでも行ってみようよ。車なら行けるところあるし」

この町にはいくつか心霊スポットがあり、夏休みに放送される怪談番組や、マニア向けのオカルト雑誌に取り上げられるような場所もあります。

中には地元民でも聞いたことが無いような心霊スポットが取り上げれており、そういったものは大抵とって付けたような怪談話が添えられており、見て聞いて行ってみて「怖い怖い」と言って楽しむ新手の観光スポットに成り下がっています。そういう場所は、本当に心霊現象があるのかどうかすらも疑わしい…。

「心霊スポット?行くって言ってもどこに?」

「ここからなら、Y谷橋が近いよ」

Y谷橋…町の外れにある峠道に掛かる橋です。ここは私が高校生くらいの頃に「自殺の名所」としてネットで話題になった場所ですが、地元民の誰もが「いつからあそこは自殺の名所になったの?」と思うほど、自殺者の話を聞かない場所です。

いわゆる、眉唾心霊スポット…

「Y谷橋ぃ?あんなとこ、心霊スポットでもなんでもないじゃん」

「でも雰囲気は不気味じゃん。何か出て来そうでさ」

「出ると言っても鹿くらいしか出ないでしょ」

「そう言わずに、行って見ようよ。夜の峠道とか面白そうだし」

うきうきと声を弾ませて車を走らせるSちゃんを見ていると、この子は意外と怖いもの好きだったのかも…と思えてきました。

20分ほど車を走らせると、Y谷橋のある峠道に入りました。私は夜にこの峠道に来るのは初めてです。

昼間は車の通りだけでなく、ツーリングに来ているバイカーたちや、ロードバイクを楽しむ人の往来が結構ある場所です。

しかし、夜になると山の木々の鬱蒼とした影が、子供の頃に見た怖い外国の影絵のように揺らめき、山の冷たい空気も不気味な雰囲気を演出しています。

空気の冷たさに身震いし、開けていた窓を閉めましたが、大して車内に熱気がこもることはありませんでした。

うねうねと蛇のように曲がりくねった峠道を走り、Y谷橋に辿り着きました。

“谷”という字がついているだけあって、深い谷に掛けられた橋は、転落防止のために高いフェンスが設置してありました。

「心霊スポットって言われているけど、なんだか普通だね。幽霊出て来ないじゃん」

「Sちゃん、幽霊なんてそうホイホイ出て来るものじゃないよ」

「そりゃそうだけどね。なんか微妙な心霊スポットだったね。帰ろうか」

車を降りることなく、Sちゃんは適当な場所でUターンをし山を下って行きました。

Y谷橋がすっかり見えなくなった辺りで、峠道を降りて行く影が小さく見えました。鹿かな?もしかしてたぬき…?

そのどちらでもありません。車のライトに当たったそれは、小学生くらいの女の子でした。

Sちゃんもその人影を見つけたようで、え!?と目を見開いて驚きの声を上げると、女の子のすぐ近くで車を停車させました。

「君、こんな時間に何をしているの?親は?」

窓を開けて女の子に問い掛けましたが、彼女は泣きそうな顔をしているだけで何も答えません。

私とSちゃんは、とりあえず警察に連絡するため、女の子を後部座席に乗せて山を下りることにしました。

「ねえ、お名前は?」

聞いても女の子は答えません。ただじっと黙って、バックミラー越しに私たちを見つめてきます。あまりにも静かなものですから、呼吸をしているのかも疑わしいほどでした。

私は、この子が不気味で仕方ありませんでした。この子が車に乗ってから、それまでには無かった息苦しさのような、圧迫感にも似た空気が車内に漂っていました。

後部座席から注がれる視線が、私たちのうなじや背中を指で掻いているような、もぞもぞとした気持ち悪い感覚…それは私だけでなくSちゃんも感じていたでしょう。

「あのさ。君、どうしてあんなところにいたの?」

Sちゃんがハンドルを握ったまま問い掛けました。すると、女の子はゆっくりと唇を動かし…

「Y谷橋に行ったの」

と言いました。

それは、おかしい…。私たちはずっとこの道を登って来ましたが、誰ともすれ違わなかったし、誰も見かけていません。そしてY谷橋では誰の姿も無かったのです。

この子は、どこからY谷橋に来たと言うのでしょう…

「そうなんだ。何しに行ったの?」

冷たいものを背中に感じつつ、バックミラーに映る女の子を顔を窺いながら聞きました。

すると、女の子は…

「パパがちゃんと死んだか見に来たの」

はっきりとした口調で答えました。

ぞ…っと体中に悪寒を感じつつ、後ろを見ると…そこに女の子の姿はありませんでした。

あの女の子が何者かは分かりませんし、知りたくもありません。

分かっているのは、Y谷橋へ向かう峠道こそが「本当の心霊スポット」だったということです。

 

霊感少女・黄泉子
最後、ゾッとしたよっ。

正確な心霊スポットは違ったんだね。

だから、地元民もピンとこなかったんだね……。

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作品は著作権で保護されています。

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