前:風俗嬢の闇
作画:chole(黄泉子)
介護施設でパート勤務をしております。近年、介護業界をめぐる暗い話題が後を絶ちませんが、私の働いている施設は他の施設と比べて、職員への待遇はかなり良いところだと思います。
時折入所者からの職員への暴言やセクハラはありますが、きっとどこの施設も同じなのだろうと半ば諦めのような気持ちもあります。ベテラン介護士ばかりの職場ですので、鈍感になっているのかもしれませんね。
介護施設で働く人の仕事内容は多岐に渡ります。中でも大事なのは、入所者のご老人たちと会話をすること。毎日顔を突き合わせる関係ですので、良好な人間関係というのはどんな業務をやる上でも必要不可欠です。
私たち職員は、朝の「おはよう」から夜の「おやすみなさい」まで、入所者の方々と色んな事をお話します。
倍以上生きている年配者と話すのは、時に疲れる事もありますがとても楽しい事でもあります。それは入所者の方々も感じているようで、若い頃の話や施設での出来事など色んなことを教えてくれます。
そんな様々な会話の中で、入所者の男性から奇妙な事を言われました。
「最近、おかしな夢を見るんだよ。夢の中で俺が畳の上で寝ててさ、それを見た事もないばあさんが俺のことをじぃって見つめて来るんだよ。なんだこのババアはって思っても声が出なくてよ。無表情でばあさんがずっと見て来るんだよ。気味悪いったらないね」
確かに変な夢です。それは気味悪いですねぇとその場では笑い合って終わりましたが、休憩中に他の職員にその話をすると、長年勤めているベテランさんたちが「あぁ…」と声をあげました。
「おばあさんの夢見る人、また出たんだね」
また…?どういうことだろうと思い聞き返すと、ある先輩が話し始めました。
「この施設でね、昔から時々あるんだよ。じっと見つめて来るばあさんの夢を見たって話し。最初は夢を見て、その後はトイレで見ただの外から見てただの…人によって色々。でね、そのばあさん見た人は数日後に亡くなるのよ。毎回なんらかの形で亡くなるの。だから私たちはそのばあさんのことを、お迎えばばあって呼んでるわ」
私の隣で聞いていたまだ20代前半のAさんは「うわぁ、こわーい」と笑いながら聞いていました。
先輩たちの沈鬱とした表情を見る限り、ただの怪談話ではないのだろうと思いました。
その翌日、お迎えばばあの夢の話をしてくれた男性から「図書コーナーで夢に出て来たばあさんを見た」と言われました。
先輩の言っていた通りだ。私はひやりと冷たいものを感じました。
この男性はそれがお迎えばばあだとは知りません。あっけらかんとその話をしていますが、先輩の話だとこの男性は数日以内に亡くなってしまう…。とても暗い気持ちになっていきました。
そして3日後、その男性は心臓発作で亡くなりました。
「また、お迎えばばあが連れて行っちゃったねぇ」
悲しみよりも得体の知れない薄気味悪さが、私の心に渦巻いていました。
次にお迎えばばあが出て来るのはいつなんだろう。もしかしたらもうすでにいるのかもしれない。
男性の死からしばらくしてたある日の朝。いつも通り出勤すると、Aちゃんが真っ青な顔で私を呼びました。
どうしたの?具合悪いの?と聞くと、
「どうしよう…私、夢にお迎えばばあが出て来た」
声を震わせながら、Aちゃんは言いました。
その日を最後にAちゃんは無断欠勤をし、10日ほど経ってからご両親から事故で亡くなったと連絡を受けました。
お迎えばばあが迎えに来るのは、入所者だけではないようです。
次は私かもしれない…
やだ、怖すぎっ……
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ねえ、怖い夢を見るのは好き?
おいらはあまり好きじゃないけど、起きたときのホッとできる瞬間は好き。