隠れ鬼

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作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

隠れ鬼って、知ってる?

かくれんぼと鬼ごっこを足したみたいな遊びだよ。

おいらも、久しぶりに遊びたいなっ。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

「隠れ鬼」って今の子供たちはやるんでしょうかね。

私が子供のころ…もうかれこれ30数年前になりますが、その当時の子供の遊びといったら「鬼ごっこ」「かくれんぼ」、そしてそれを組み合わせた「隠れ鬼」が大人気でした。

まだゲームやパソコンも無い時代でしたので、そういった外遊びが何よりの刺激になっていたのです。

今もこういう遊びをやりたいかと言われたら…ちょっと困りますね。体力も落ちていますし。体力的な問題を別にしても、隠れ鬼だけはもうやりたくありません。

ずいぶんと怖い思いをしましたので…

あれは私が小学3年生の時です。いつものように放課後、同じクラスの友人A、B、Cと一緒に近所の神社へ行って遊んでいました。

この神社は町内が一望できる丘の上にありました。丘と言うよりちょっとした小山のようになっていましたので、周囲は木々が生い茂り、かくれんぼをすると盛り上がる子供の人気スポットでもありました。

最初のうちは物差しでチャンバラごっこをしていましたが、それも飽きていたのでかくれんぼか鬼ごっこ、隠れ鬼をやろうという話になりました。

しかし、4人で意見が割れてなかなか話がまとまりません。

仕方ないから家からボールでも取って来るか。妥協案が出そうになった時、誰かの視線に気が付きました。

視線のする方…古い社の方へ目を向けると、小学1年生くらいの男の子がコソコソと私たちのことを見つめていました。

車のプリントがされたシャツを着た、色白の子です。

「きみ、何か用?」

私が声をかけると、Aたちも一斉に男の子を見ました。少し驚いた様な顔をして、彼は小さな声でこう言いました。

「何して遊んでるの?」

彼がいつからいたかは分かりませんが、長い間ずっと私たちを見ていたわけではないようです。

Aが「今決めてんだよ」と苛立った様子で言い返すと、男の子は少し怯えたような目になりました。

「きみさ、混ぜてほしいの?」

私がそう聞くと、男の子は大きく頭を縦に振りました。私とBは男の子と一緒に遊ぶのに賛成でしたが、AとCは「1年生と遊ぶなんてつまんねーよ」と嫌がりました。

「鬼ごっこしようにもボール遊びしようにも、あんな小さい子じゃ全然相手になんねーよ」

「おとなしそうだし、走れんのかよ」

AとCの言っていることも分かりますが、あの男の子様子だと、無視しててもくっついて来そうな雰囲気がありました。そんなことをされるくらいなら、最初から仲間に入れて一緒に遊んだ方が後腐れがありません。

私とBで二人を説得し、男の子を仲間に入れて遊ぶことにしました。

「きみ、名前は何ていうの?」

「ぼく、アキオ」

「そっか。アキオくん。何をして遊びたい」

「かくれおに、やりたい」

アキオくんの提案で、半ば強制的に隠れ鬼をすることになりました。

隠れ鬼は地域や子供たちによって、ローカルルールにも似た独自のルールがいくつかあります。

例えば、鬼役は帽子を被りタッチされたら帽子を次の鬼に引き継ぐ。「もういいかい」「もういいよ」を言わず、鬼が100秒数えたら強制スタートする。等のルールです。

私たちはいつも、

神社の境内だけでなく、この丘全体を使って隠れ鬼をする。

鬼が100秒数えてからスタート。

終了のタイミングは、全員が鬼を経験したら。

というルールで遊んでいました。

じゃんけんで最初の鬼はBに決まり、私たちは散り散りになって隠れる場所を探しました。

Aは丘の麓の方へ。私とCは林の中へ。そしてアキオくんは社の裏の方へと駆けて行きます。

上手く隠れたつもりだったのですが、最初に見つかったのは私でした。その後Bから鬼を引き継ぎ、アキオくんを見つけてアキオくんが鬼になりました。

しかし、アキオくんは見つけるのが下手なのか、いつまで経っても誰かを捕まえることができません。

やがて空が赤くなり始め、私たちは隠れていた場所から神社の境内へと集まりました。

「もう夕方だし、帰ろうよ」

「でも、アキオくんどうすんのさ」

「暗くなったらそのうち帰るか、親が探しに来るだろ」

「もしかしたら、もう帰ってるかもしれないし」

私たちは、無責任なことにそのままランドセルを背負って丘を降りて帰ってしまいました。

翌日学校の緊急集会で、一年生のタナカアキオくんが昨日から家に帰っていないという話を校長先生が言っていました。

昨日学校を出たのを最後に、そのままどこへ行ったか分からなくなっているようです。

アキオくん…

私たち4人は、その名前に顔を青くしました。

タナカアキオくんを最後に見たのは、私たちということになるのです。本当なら、昨日の夕方まで一緒に遊んでいたけど途中で放置して帰ってしまったと先生に報告するのが筋でしょう。

しかし、まだガキだった私たちは「言ったら先生や親に怒られる」というちっぽけな恐怖心から、アキオくんなんて子は知らないという大きすぎる嘘をつきとおすことにしたのです。

幸い、誰も私たちがアキオくんと一緒にいるところを見ていませんでしたので、大人たちが私たちに話を聞きに来ることは一度もありませんでした。

その後、アキオくんが無事に家に帰れたかどうかを聞くことはなく、気が付いたら私たちは小学校を卒業し…やがて高校も卒業して大人になっていました。

私は東京の大学に進んで、地元に戻ることなく都内の会社に就職しました。

社会人生活にそこそこ慣れて来た25歳ごろのことです。いつものように残業をして21時に会社を出ました。

ちょっと疲れたし、一杯飲んでから帰るか…

駅前の立ち飲み屋を目指して繁華街を歩いていると、どこからか私を見つめる視線を感じました。まるで誰かに呼ばれているような、そんな気がしたのです。

私は立ち止まり辺りを見回すと、雑踏の隙間から小さな男の子がこちらをじっと見ているのを見つけました…

少し時代遅れな車のプリントがされたシャツを着た、色白の男の子…どこかで見たことがある子でした。

男の子は私と目が合うと、ニタリと笑って…

「みいつけた」

と可愛らしい声で言いました。その瞬間、小学3年生のある放課後の思い出がよみがえりました。

神社、隠れ鬼、小さな男の子…

「アキオくん…」

そうだ、タナアキオくんだ!

あの子がここにいるなんてありえない…私は夢でも見ているんじゃないか、疲れて頭がどうにかしてしまったのではないかとパニックになりました。

その瞬間、アキオくんは雑踏の中をすり抜けるようにして私の方へと駆けて来ました。

そうだ、あの時はアキオくんが鬼だった!

反射的に私は人混みの中を逃げるように走り出しました。途中振り返ると、アキオくんは無表情で私のことを追いかけてきます。

みいつけた、みいつけた、みいつけた……

囁くような声だけがなぜか私の耳に入り込んできて、言い知れぬ恐怖に体中から冷や汗が噴き出してきました。

繁華街を抜けて駅の改札を抜け、ホームに来ていた適当な電車に飛び乗ってドアが閉まると同時に外を見ました。

駅のホームの人混みの隙間から、アキオくんは睨むように私を見つめていました…

家に帰ると、急いでかつての同級生であるAたちに電話をしました。

その日のうちに連絡がついたのはBだけで、Bに今日あった出来事を話すと、

「実はさ…俺もおととい会ったんだよ。アキオくんに…。彼女とのデート帰りに追いかけられて…」

「じゃあ、もしかしたらAとCも…」

「俺とお前がアキオくんに会っているから、きっとあいつらも…」

瞬間、何かを見つけたかのようにBはひぃっと電話の向こうで悲鳴をあげました。どうした?と声をかけると、

「窓の外に、アキオくんがいる…見つかった…」

ぞくり、と背中に冷たいものが走りました。

アキオくんは、私のところから今度はBを探しに行ったのです…

「ごめん、もう切る。逃げなきゃ…」

私が何かを言う前に電話は切られてしまいました。Bとはそれ以来連絡がつきません。逃げ切ったのか、それもと……無事でいてほしいと今も願っています。

アキオくんに再会してから、今まで随分と月日が流れてしまいました。

実は私はもう東京には住んでいません。地元にも帰らず、各地を転々としているんです。なぜって…?

まだアキオくんが、私を追いかけて来るからですよ。まだ隠れ鬼は続いているんです…

AとCも私と同じように逃げ回っていますよ。私たちは一生、隠れ鬼を続けなければならないのでしょう。

アキオくんが鬼になっている間は…

 

霊感少女・黄泉子
げ、現在進行形……。

おいら、隠れ鬼できなくなっちゃったよっ。

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作品は著作権で保護されています。

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