前:よみがえり
作画:chole(黄泉子)
私は昔、駅員をやっていました。昔といっても平成になる前の時代ですので、今から相当前のことです。
今でこそ観光客が多い地方都市ですが、私が勤めていた頃はそれはもう寂しいもんでした。人の出入りが多いのは通勤通学の時間帯ばかり。昼間は暇な年寄りがベンチで一日中ひなたぼっこしていたり、学校をサボっている不良学生が駅の隅でコソコソ煙草をふかしているくらいです。
駅構内には煙草や新聞を売っている売店が2つ、立ち食いそば屋が1つ、そしてコインロッカーが1つありました。
使用頻度の少ないコインロッカーは、人通りのある改札口付近に設置されていましたが、使っている人があまりいないせいか陰鬱な空気を纏ったオブジェと化していました。
そんなコインロッカーに、いつの頃からか妙な噂がまとわりつき始めました。
コインロッカーの中から、声がする。もしくは、物音がする。
都市伝説なんかにある、コインロッカーから赤ん坊の泣き声がするというものの亜種かと思いました。
流れ出した噂は自然と我々駅職員の耳にも入り、こんな田舎にも都市伝説かと笑っていたものです。
ある日、駅員の詰め所にいつも駅前で煙草をふかしている不良学生たちが駆け込んできました。煙草の臭いをぷんぷんまき散らしながら、不良たちは顔を青くして言いました。
「大変だ。コインロッカーが変なんだよ」
私や同僚の駅員たちは、また不良たちが悪戯でもしたのかと思っていました。
「なんだ?また変なことしてんじゃないだろうな」
「違うよ。とにかく来てくれよ。コインロッカーから変な音がするんだよ」
私と同僚は顔を見合わせました。噂話にはなっていましたが、実際にこうして訴えられたのは初めてだったのです。
私たちは不良たちに連れられてコインロッカーまで行きました。
いつも通り使われている気配が無く陰鬱な空気がありましたが、今日はもっと違うものを感じました。
言葉にするには難しいのですが、コインロッカーの前に立った瞬間、体中を冷たい羽毛のようなもので撫でられているような、ぞわぞわとした君の悪さを感じました。
「どこから音がするんだ?」
「中だよ、上から3段目くらいのところ」
言われた場所をじっと見つめてみましたが、何も聞こえて来ません。
何も聞こえないぞ、冗談はやめなさい。そう言おうとした瞬間。
トントン、トントン……
ロッカーの内側から、壁を叩くような音が微かに聞こえてきました。私も同僚も、一緒にいた不良たちも一瞬にして声を失い顔色を変えました。
トントン、コンコンコン……
上から3段目。確かに内側から聞こえて来ます。まるでノックするような音が…
私と同僚は詰め所から緊急用の鍵を持ってきて、急いでロッカーを開けました。
開けたロッカーは、がらんとして何も入っていません。ホッとしたような、かえって気味が悪いような気持ちでいると、下から2列目のロッカーから…
ドンドンドンドン!ゴンゴンゴン!
とけたたましい音が聞こえて来ました。まるで誰かが、ロッカーの内側から激しくノックをしているような、そんな気がしました。
私は全部の扉を開けるのが恐ろしくなり、恐怖に震える不良たちを帰らせて同僚と一緒にロッカーから離れました。
なんだか、絶対に開けてはいけないような気がしたのです。
その後もチラホラとコインロッカーの奇妙な音や声の話は耳に入りましたが、開けて何かが出て来たという話は聞きませんでした。
しかし総じてみんな言うのは、なんだか誰かがいるような気配がしたということ。
そのコインロッカーがまだあるかは分かりません。地方都市の駅にある古いコインロッカーには、どうぞお気を付けください。
これ、実話だそうだよっ!
おいら、コインロッカーが怖くなっちゃったよっ。
前:よみがえり
今日は、コインロッカー怪談みたいだよ。
考えてみると、コインロッカーってちょっと怖いよね。
毎日、いろんな人が荷物を入れる場所でしょ。
中には、良からぬモノを入れていく人もいそうだもんね……。