泳いではいけないレーン

↑「あとで」は、しおり代わりに使えるよ↑

  前:不倫の代償

 


 

作画:chole(黄泉子)

 


 

霊感少女・黄泉子
とりゃっ。 あははっ。 黄泉子(よみこ)だよ。

ねえ、泳ぐの好き?

おいら、泳ぐの大好きっ。

 

これは、28ノベルだけで読むことができる怖い話です。2ちゃんねるのコピーではありません。

 

最近体重が増えて来たので、ダイエットのために市営のスポーツセンターまで泳ぎに行っています。

仕事が休みの日しか泳ぎには行けませんが、僕の仕事は平日休みですので混雑しない平日に行けるのが嬉しいところです。

市営のスポーツセンターなんて大したこと無いだろうと高を括っていましたが、実際に行ってみると設備の充実っぷりに驚きました。

民間のジムのような最新のトレーニングマシンや、高校生の大会にも使用される体育館。広い柔道場に、バレエ教室もやっているダンス室…今のスポーツセンターは進んでるなぁと思ったものです。

室内プールも非常に広く、水中歩行用のプールと滑り台付の幼児用プール、温水ジャグジー、サウナ、そして25mプールがあります。

土日になるとどのプールも混み合いますが、平日は水泳歩行用のプールで高齢者がのろのろ歩いていたり、幼児用プールでママと子供が水遊びをしている程度で、25mプールで泳いでいる人はほとんどいません。

広いプールを貸し切り状態で泳ぐというのは、とても気持ちが良いものです。

スポーツセンターに行く事が楽しくなってきた頃、僕はいつも通りプールに行き準備運動をして7つに分かれたレーンの、3番のレーンに入りました。

(いつもは平泳ぎばかりだけど、今日はクロールでガンガン攻めてみよう)

僕は水に潜り、勢いよく壁を蹴って足をバタつかせました。平泳ぎと違い、グングン水を掻いて体中で前へ進んでいる感じが心地良くて、人の目を気にしなくなっていました。

その時、隣の4番レーンから他の人の泳ぐ気配を感じました。自分も泳いでいるので音は聞こえませんでしたが、気配だけは感じます。後ろから追い上げて来る気配に、僕はさらに腕に力を籠めます。

(すごい追い上げだな。負けないぞ!)

しかし、隣からの追い上げはすさまじく、あっという間に追いつかれてしまいました。息継ぎの時にちらりと見えた隣の影は、若い男性のようでした。

段々と疲れて来た僕は、やっとのことでゴールしプールから顔をあげました。

僕を抜かした人物の姿を拝んでやろうと辺りを見渡すと、そこには誰もいませんでした。思わず振り返りプールを見てみましたが、僕の泳いでいた場所だけが波打っていて、隣のレーンは静かなものです。

プールサイドも乾いており、誰かが上がった気配はありません。

(気のせいかな…?でも、確かに誰かいた。誰かが、僕を追い越した…)

僕が見た若い男性らしき人物はどこに行ったんだろう。僕はプールサイドを暇そうにうろついている監視員の女性を呼んで聞いてみました。「僕の隣のレーンを、誰か泳いでいましたか?」と聞くと、彼女は言いました。

「いいえ。今の時間25mプールを泳いでいるのは、あなただけですよ」

その言葉に、僕は一瞬言葉を失いました。おかしい。確かに誰かいたはず。

よっぽど僕の表情が強張っていたのでしょう。女性は真顔になって低い声で、

「あの、誰か泳いでいる気配とか…そういうの感じましたか?もしくは、何か見ましたか…?」

「はい。僕のことを追い抜いた人が確かにいました…」

今度は彼女の顔が強張りました。

「このプール…いや、このレーン。何かあるんですか?もしかして…」

恐る恐る聞いてみると、彼女は間髪入れずに言い返してきました。

「いいえ。何もありませんよ。ただ、この3番レーンと4番レーンでは泳がない方がいいと思います」

そう言って足早に去って行ってしまいました。

何もない…そう否定されても、確かに4番レーンに誰かの気配を感じました。

このプールで昔事故があったとか、そんな話があるのかはわかりません。

ただ分かるのは、3番レーンと4番レーンを使うと「良くない事」が起きるんじゃないかという漠然とした恐怖だけです。

 

霊感少女・黄泉子
ええーー。

市営のプール好きなのに……

怖くて行けなくなっちゃうよっ。

  前:不倫の代償

  次:おゆらいさん

作品は著作権で保護されています。

\ シェアしよう /